海から現れたのは?
プルルルー! プルルルー!
「は、はい!」
スマホの着信音で目覚めスマホを耳にあて返事をする。
「あなた! 今何処にいるの?」
周りを見渡してから答えた。
「海…………」
「まだ寝ていたの? まったくもー、もう直ぐ夕食の時間よ。
子供たちもお腹を空かせて待っているんですから、早く帰って来てくださいね。
分かった?」
「ああ、分かった、直ぐ戻るよ」
今朝家を出て、妻と子供たちを連れ海に二泊三日の旅行に来たのだか、昨晩遅く会社から帰宅したってのもあって、旅館に荷物を置き海岸に来て直ぐにダウン。
1時間くらいの昼寝のつもりだったのに熟睡してしまったらしい。
砂浜から階段を上がり海沿いの道に出て、旅館に向けて歩きながら砂浜に次々と打ち寄せる波を見つめた。
打ち寄せる波を見ていたら大学生の頃の出来事が頭を過る。
私は大学生のとき人を殺した。
海岸から遥か沖合を航行するフェリーの上から、友人を海に突き落としたのだ。
友人と沖縄に旅行に行った帰り、些細な事で喧嘩になり激昂しての犯行だった。
友人を突き落としたあと事件の発覚を恐れ私は直ぐそこを離れ、翌朝下船するとき友人がいないと騒ぐ。
警察は事件と事故の両方で捜査したが、偶々友人が1人で海を眺めているところを目撃した人の証言で、事故として片付けられた。
友人の遺体は未だに見つかっていない。
そんな事を思い出しながら旅館への帰り道を歩いていた私の目に、砂浜に打ち寄せる波と共に白ぽい半透明な何かが、砂浜に打ち上げられるのが映る。
打ち上げられた半透明な何かは立ち上がり、周りを見渡すような仕草を見せたあと私を見た。
私を見た半透明な何かは片手を上げるような素振りを見せ、私に声を掛けて来る。
「ヤア! 久しぶり」
こ、この声は……あ、あいつの声だ。
私が大学生の頃フェリーから突き落とした友人の……声に、間違い無い。