二輪
『二輪』
別々の中学校生活。
彼女の居ない、真奈沙の居ない、学校生活。
当時の私にとって…何一つ考えられない唯一のできごとだった。
私にとってはごく普通で、当たり前で、日常風景のような安心感があった…筈の光景が、瞬時にして消え去った。
何度校内を探しても彼女はいない。
何度彼女を求めても、もう目の前にはいない。
私は、、意識があろうと無かろうと…真奈沙を求めるようになってしまっていたんだ。
当時は無意識だったけど、今は確証を持ってそう言える。
今もそうなんだけど。
今とは違う、もっと別の感情…もっと純情で華やかで、その想いを叶えられないもどかしさが支配する何かに取り憑かれていたんだ。
…それでも私は、自分を隠して、塞いで、閉じて、鍵をかけて、己を出さないようにした。
話しかけられても優しく完璧に、笑顔で純粋で無垢のように嘘で塗り固めた自分を作って、友達作りを少しばかり頑張ってみた。
でも…周りには馬鹿しかいなかった。
私という人間を誰も認めてはくれなかった。
上辺だけの付き合いは多かった…けど、本心では私は仲間として受け入れられなかったんだ。
だって、、私は聞いたんだよ?
「薄暗くて嫌い」って「何考えてるか分からないから嫌い」って、、、ならさ、話しかけて来ないでよ、、って内心はずっと愚痴と文句で一杯だった。
チャイムの音が鳴る教室
「何の本を読んでるの、愛海さん?」
そんな流れていく時の中で、真奈沙と同じように…突き放したとしても声を掛けてくる男子が一人いた。
私の存在を否定するような雑音にも等しい噂話を聞いていながら、彼は何一つ動じず声を掛けてくる…とんだ無謀で、馬鹿な人。
別に私は、女子だろうが男子だろうがレスポンスが苦になることは無い。
男も女も同じ人間だし、意思疎通が計れる存在なんかじゃないから…笑顔であしらっていれば一見フレンドリーに場を凌げるから。
「太宰治さんの小説を読んでるよ、貴方も本読むの?」
私は別に他人に興味はない、好きな物を聞いても、好きな何かを聞いたとしても、私にとっての利益に繋がらないから。
でもこの通り、同じ趣味があるかどうか聞くだけで会話は成立するんだよ。
簡単だよね。
でも…彼だけは他と違った。
「ん~…太宰治の本は苦手だなぁ、、それより…」
とっても面倒で、とっても嫌いなタイプの人間だった。
他人の≪好き≫を否定して、自分の≪好き≫を押し付けるような、私が感じる最も愚かで最低なタイプ。
「へぇ…そっかそっか、うん、確かにね」
それ以降は適当に相槌を打って流していく。
その間も笑顔で、笑顔で、笑顔で、愛想良く、会話に飽きて去っていくまで耐える。
私の嫌いなタイプの会話なんて、聞く価値も意義もないんだから、それで良いんだと思い続けていた。
私は、私を失いたくない。
だから他人を塞いで、自分だけの世界で生きていた方がマシ。
その方が、生きやすいんだと悟っていた。
すると、2年生に進級して数か月経った時…。
登校してくると、下駄箱に
所謂『ラブレター』が入っていた。
私は、私のままで。




