8
視点がバラバラですが、ご容赦くだされ…
(エリザベートが婚約破棄をされた翌日。)
「どうしてわたくしが軟禁されなくちゃいけないのよ!!」
ここはディルス子爵家の屋敷。クラリスは周りを騒がせたとして屋敷に一時的に軟禁された。
が、彼女は全く納得していない。
「わたくしは聖女なのだから、ジュード様と城で暮らすべきなのよ!」とクラリスは荒れていた。
平民との間に出来た娘が治癒魔法が使えることを知った子爵は、彼女を神殿に勤めさせて稼がせようとした。が、彼女は全くと言っていいほど使い物にならなかった。彼女を養子にしてしまったのは子爵の中で黒歴史だろう。
パーティに子爵は参加できなかった。商談が長引いたことによって屋敷への到着が今朝になってしまったからだ。
事の顛末を聞いた子爵は子爵家の終わりを察する…。
「クラリス、静かにしないか!」
「だって、お父様!おかしいのだもの!
わたくしは聖女でわたくしの治癒魔法があれば、あんな侯爵令嬢なんて…!」
「お前は阿呆なのか…?ランドン嬢は『あんな』ではない。彼女はお前よりも何倍も聖女然としておられる。」
「いいえ、お父様!ジュード様がわたくしの方が聖女だと仰ってくださいましまわ!
パーティの前に神官たちに認定もいただいています!」
「はあ…今日から、お前には監視がつく。ランドン嬢が神殿を辞める以上はお前が殆ど全ての患者を…」
「えっ!?平民を見るなんて嫌よ!?」
「馬鹿者!!」
パシッ!と子爵はクラリスの頬を叩いた。
「お、お父様…?」
「お前を養子にしたのは間違えだった。民の心に寄り添えないとは…
今後、王家より沙汰あるまで、屋敷と神殿の行き来以外は認めない!」
「そ、そんな!」
「さあ、もう神殿に行く時間だ。ランドン嬢がいてもくれぐれも近づかないこと。いいな?」
父親の圧にクラリスは頷くことしかできなかった。
………
(ここは神殿。時はパーティが終わった後。)
「我々は何故エリザベート様を神殿から追放してしまうようなことを…」
「彼女並みに魔法を使える者などいないというのに…」
神官たちが頭を抱えている。
「お前たちは一体いつから聖女を認定する権限を持っていたんだ?」
「し、神官長様!?」
そこに現れたのはこの神殿で権力のある神官長とその神官長にお縄にされている神官だ。
「儂がいぬ間に愚かなことをしおって!
まあ、エリザベート様を追放することになった原因はこいつだがな!」
「ぼ、僕は何もしておりません!」
「ほう?この儂に嘘を申すのか。忘れたのか?儂は嘘を見抜けるのだぞ?」
「ひいぃっ!!」
「大方、ディルス様に騙されて…といったところか?」
「クラリス様の方が聖女に相応しいのです!
だから、エリザベート様には退いてもらった!それだけです!」
「では、儂もディルス様を聖女と認めてやろう。そしてお前が新たなる聖女様をお支えするんだ。
どんな結末になっても…。」
そこから神官長は早かった。時刻はまだエリザベートが婚約破棄をされてからそれほど経過していない。
翌朝にはエリザベートとジュードの婚約破棄が発表になることも知っていた彼は『仮聖女』としてクラリスを認定したことを、国王のみに伝えた。
神官長は分かっていたのだ。クラリスの実力は神殿内では下のほうであることを。
忙しくしている最中にエリザベートから神官長宛に手紙が届いた。それを読んだ神官長は神へ祈りを捧げる。
「神はまだ我々を見限ってはおられなかったのだな…。」
手紙には後任に心当たりがあるから指導したいので場所を貸してもらいたいと書かれていた。
神官たちが一方的にしたことに対しても怒ることもせず『これも神様のお導きなのでしょう。』と寛大な言葉を貰った神官長は泣きながら祈りを捧げ続けた。
………
「そうです。そこの配分は…」
「こう…ですか?」
「ええ。やはり貴女に任せて良かったわ。」
私はサーラの輿入れまで神官長が用意した部屋で後任になりそうな伯爵令嬢の指導をした。
彼女にはセンスがある。多少オドオドしたところもあるけれど、学ぶ姿勢に好感がもてた。
「あ、あのエリザベート様…本当にわたくしに務まるでしょうか…?」
「安心なさい。貴女はわたくしが認めた唯一無二の存在なの。わたくしが王国を出た後も、父に後見を頼んであるわ。」
「ランドン侯爵閣下にですか!?」
「ええ。困ったことがあれば神官長様が助けてくださるわ。わたくしも最初はそうだったのよ?」
「想像がつきません…」
「ふふ。努力は陰ながらするものなの。わたくしはそう思うわ。」
「わたくし、やってみます!エリザベート様の期待に応えるためにも、弟妹のためにも!」
「その意気ですわ!」
私はこの時既に国王に彼女をジュードの婚約者にどうかと薦めていた。
国王はパーティでジュードとクラリスの婚約は認めていない。私は今後も国王は認めるつもりはないと考えている。
だが、彼女に余計な負担をかけたくないので、私は何も言わずに帝国へと行く。
私たちが帝国へ着いてからジュードと彼女の婚約を本格的に進めてもらう算段を父と立ててある。
筆頭侯爵家であるランドン家が伯爵家の後ろ盾となれば問題ないと思っている。
そんな私の思惑通りにジュードと伯爵令嬢の婚約が纏まるのはサーラたちの婚姻が済んでからとなるので、もう少し先の話。