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会場へ戻るとサーラと目が合ったので近くへ移動する。
「リズ、ずっと見当たらなくて心配したわ…。」
「ご心配おかけしました。」
「エリザベート嬢、ヴィルに探しに行かせて正解だったようだね?」
「はい、アルベルト様。ヴィルヘルム様のお陰で…!!」
ヴィルヘルムの名前を言っただけで私の顔が赤くなる。
「あら?どうかしたの?」
「な、何でもありませんわ!」
「ふーん。」
「わ、わたくし飲み物を取って参りますわ!」
私は恥ずかしさからサーラたちから離れた。
「ねえ、アル様。もしかしてヴィルヘルム様、何かの勢いで告白をしたとか…?」
「エリザベート嬢の表情や反応を見た限り可能性はあるね。名前を言っただけで顔を真っ赤にしていたし。
まあ、ヴィルも焦っているのだろう。
なにせ彼女は初恋の相手なのだから…。」
「ふたりが想い合ってくれたらいいな…。」
「大丈夫なんじゃない?」
「えっ?」
「少なからず、ヴィルはジュード殿とは違うさ。
サーラの兄君を悪くはいいたくないけどね。」
「ふふ。異母兄ですからいいのですわ。昔から遊んでもらった記憶もありませんし。」
「まあ、僕らはヴィルとエリザベート嬢を見守るだけさ。」
「そうですね。帝国で暮らし始めればヴィルヘルム様にも沢山のチャンスがありますものね。」
「ああ。」
こんな会話がされていると知る由もない私はヴィルヘルムの言葉が頭を廻ったままふわふわした気持ちで残りの時間を過ごすことになってしまった。
………
「はあ…それで兄上はこんなところでヴィルヘルム殿とエリザベート嬢と何をされていたのですか?」
私が会場へ戻った後、アランはため息を吐いてからふたりに問いかけた。
「アラン殿下、見苦し所をお見せしてしまい申し訳ありません。」
「見苦しなどとは思っておりませんよ、ヴィルヘルム殿。貴方は彼女への気持ちを素直に言っていただけでしょう?」
「(最初から見ていた?)そうですが…」
「事の発端は兄上が無理矢理エリザベート嬢を婚約者に戻そうとした…とかでしょう?」
アランはジュードに視線を向ける。
「無理矢理ではない!エリザベートだって本当は僕のことが好きで、だからあんなに努力して…」
「兄上は彼女の努力を知っていたのに、ディルス嬢から手柄を横取りしたと思っておられたのですか?」
「……」
「兄上、実は僕は王太子、国王の座に興味がありません。
幼い頃より、兄上が国王になるのが当然と思って育ってきましたから。
ですから僕は兄上を支えられる王弟になると決めています。
エリザベート嬢も昔から全て出来ていた訳ではありませんよ?婚約者として紹介されたときの彼女はオドオドした印象もありましたが…。
兄上こそが彼女の努力を一番近くで見ていたのではありませんか?」
ジュードはアランの言葉にハッとした。
「僕はエリザベートの努力を一番近くで見てきたはずなのに、どうしてクラリスの言葉を鵜呑みにしたんだ…」
「それは兄上の弱さが招いたことでしょう?」
「(俺からしたら、アラン殿下の方が上に立つ者の風格があるけどな…。問題になるから言わないけど。)」
ヴィルヘルムはアランとジュードを見つめるだけだ。
余計な口は挟まない。
「兄上、エリザベート嬢が後任を育てていることはご存知です?その御方を聖女として王家に迎え入れる準備をしなくてはなりません。それがエリザベート嬢に対して兄上が出来る贖罪ではありませんか?」
「…お前の言う通りだ、アラン。
僕は自身の地位を盤石にする為に彼女を利用してしまうところだった…。」
「分かっていただけて何よりです。
そもそも、兄上が王太子でないと僕も困るんですよ?
僕の婚約者は国母にはむいていないのですから。」
「(アラン殿下の本音はそこか…)」
「それでノルバンディス殿。」
アランはヴィルヘルムを見る。
「彼女に告白する前から、外堀を埋めすぎではありませんか?」
「!!」
「僕、周りを観察するのは得意なんです。」
「…帝国へ向う前に彼女へ気持ちが知られてしまうとは予想外でした。」
「僕は応援してますよ?彼女を頼みます。」
「ノルバンディス殿、僕がこんなことを言う資格はないが、彼女を頼む…。」
「ジュード殿下、アラン殿下。承知しました。
ジュード殿下、先程は生意気を申しました。お赦しを。」
ヴィルヘルムはバルコニーを去り、エリザベートたちの元へ向かった。
………
「アルベルト、戻ったよ。」
「お前にしては時間がかかったな。」
「アラン殿下は喰えない男だったよ。」
「はは。アラン殿にお前の行動力を褒めてもらえたのだろう?」
「褒められたのですかね…?」
「ヴィルヘルム様、アランは貴方様を気に入り褒めているのですわ。
この王国の次期宰相はアランです。お互いに似た境遇なのでしょう。」
「そうかもしれません。」
「サーラ様、戻りまし…!あっ!ヴィルヘルム様もお戻りだったのですね!?」
「あ、ああ…。」
「ヴィルヘルム様…あの、さ、先程…」
「エリザベート嬢、い、今はサーラ様の門出を祝うパーティだから、その話はまた…」
「そ、そうですね!わ、わたくしったら…。」
私は、その会話をクスクスと笑いながらふたりが見ていることに気が付かなかった。
「エリザベート嬢、踊っていただけますか?」
「は、はい。」
ヴィルヘルムの誘いにまたもや私の顔が赤くなる。
「サーラ、僕たちも踊ろう?」
「喜んで、アルベルト様。」
緊張もしたけれど、私たちは心置きなくダンスを楽しんだのだった。