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「リズ、あのパーティのときは急なことばかりでごめんなさい…。」
「いいえ。確かに驚きましたが、あの婚約破棄劇の後でしたから、とても助かりました。」
今、私はサーラの私室でお茶をしている。
あの婚約破棄劇から半年。ジュードとの婚約破棄は翌日には民に公表された。
冤罪の方はどうやら、私のサポートをしていた神官がクラリスの方が聖女に相応しいと思いとった行動だった。確認もせずに王族へ報告してしまった神官上層部は焦っているとか。
クラリスはそれほど治癒魔法が使えるわけではなかったので国民たちは困り果ててしまった。そんな様子を見て、薬だけは一定量作って神殿へ納めるようにした。
また神官長に頼み育成に力を入れ、私の後任を任せられる人材を育てることができた。
彼女は家が貧しいからと積極的に私から魔法や薬の作り方を学んだとある伯爵令嬢だ。
「ディルス嬢では王太子の婚約者は務まらないと思うの…そもそも子爵令嬢で、元は平民ですから反対勢力もあるでしょう…。
ですから、わたくしの後任の彼女を侯爵家が後見をしてあげてほしいのです…。」と父に頼んだこともあった。
父は、「ジュード殿下の出方もある。だが、リズの気持ちも尊重しよう。」と言ってくれた。
しかしながらジュードからは「サーラの輿入れまで治癒を手伝ってくれないか?」と言ってきた。
そこは私ではなくサーラが「お兄様が責任をお取りになれば宜しいのです。真実の愛のお相手と頑張ってみてはいかがですか?エリザベートに助けを求めるのはおかしいですわ。」と断ってくれた。
私が伯爵令嬢をさり気なく国王へアピールしていることをサーラは知っている。
きっとその彼女が婚約者になるだろうということも。
それでも彼女は私へのジュードの態度が許せず最後まで困らせてやると思っているらしい。
因みに、国王はまだジュードとクラリスの婚約を認めていない。
「ねえ、リズ。そろそろ他人行儀はやめない?
わたくしは昔の様に貴女と笑い合っていたいのよ…。」
「…サーラは我儘ね?分かったわ。昔のように話そう?」
私は久しぶりに気兼ねなくサーラと会話をした。
そしてサーラの輿入れを祝うパーティが開催される日、私の運命を変える出来事が待っていた。
………
パーティはとても盛大に行われた。アルベルトの横でサーラはいつも以上に輝いていた。
「エリザベート、少し話せないだろうか?」
サーラたちを見つめていた私にジュードが声をかけてきたのだ。
「ジュード殿下、わたくしはもう婚約者ではありませんので、家名で呼んでください…。」
「すまない…。ランドン嬢、少し話せないか?」
「…分かりました。」
私はジュードとバルコニーへ出た。
「ランドン嬢、僕は離れて君の大切さに気がついたんだ…。僕とまた婚約してほしい。」
「殿下、御冗談を…」
「エリザベート…!」
私はジュードに抱きしめられてしまった。
「で、殿下!お離しください!」
「君が僕の元へ戻ると言ってくれなければ離さないよ。」
「わたくしが殿下の元に戻ることはありません!ですから…!!」
「ジュード殿下、ご令嬢に何をなさっているのです!?」
私が無理矢理離れようとしたときに不意に誰かの声がした。
「ノルバンディス殿か。邪魔をしないでくれ。
これは僕と彼女の、つまりは王国の問題だ。帝国の貴族が口を挟まないでくれるか?」
「ヴィルヘルム…様!!」
ヴィルヘルムは少し強引に私をジュードから離して背に匿った。
「おい!いくらアルベルト殿の従弟とはいえ貴族子息が王族の婚約者を奪い取るとは何事だ!?」
「ジュード殿下、彼女は婚約者ではありませよね?
彼女との婚約は半年前に解消されております。
婚約者でもない女性を強引に抱きしめておられたのでお止めしたまでですが?」
「エリザベートは必ず僕を選ぶ!」
「だ、そうだけど?」
「わたくしはサーラ様と共に帝国へ参ります。
それは王命でもあります。違えることは出来ませんし、わたくしは自身の意思で帝国へ行くのです!」
「ジュード殿下、新たに婚約者として据えようとしていたディルス嬢のせいで半年と経たずに王太子の座が危ないからと、エリザベート嬢を手元に戻そうとされているのではありませんか?」
「えっ!?」
「そんなことはない!僕はエリザベートを愛しているから言っているのだ!」
「ジュード殿下、申し訳ありませんが彼女は私が帝国で大切に護らせていただきますから、どんなにお声掛けいただいても無駄ですよ。」
「えっ!?」「はぁ!?」
私とジュードは同時に驚く。
今、ヴィルヘルムは何と言った?聞き間違えかと思ったが彼は私を帝国で大切に護らせていただくと言った…。
驚かないほうが無理である。
「勝手なことを言わないでくれ。エリザベートは渡さない。彼女は僕のものだ!」
「彼女はひとりの人間です。
婚約破棄を宣言した際に彼女に酷いことを仰ったのをお忘れですか?
それをご自身の立場が危うくなったからと婚約者を戻すとは…。」
「貴様には関係ないだろ?」
「いいえ。エリザベート嬢を慕うひとりの男としてジュード殿下に彼女を託すことはできません。」
一触触発の雰囲気に私はどうしていいのか分からなくなる。
それよりもヴィルヘルムが私を護るとか慕っているという言葉が頭を廻る。
「兄上、もうお止めください。」
助けにきたのはアランだった。
「アラン!」
「アラン殿下。」
「エリザベート嬢、兄がご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません。
会場で姉上が待っているので戻ってください。
ノルバンディス殿は少しお話を。」
「殿下、承知しました。」
私はヴィルヘルムたちから離れて会場へ戻った。