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「ふふ。リズ、やっと貴女を独占できるわ。」
「サーラ様、急にあんなことを仰っしゃられてはわたくしの心臓が持ちませんわ…。」
「だって、お兄様ったらっ…」
「こらこらサーラ、エリザベート嬢が困っているだろう?」
アルベルトがサーラの頭を優しく撫でながら私に視線を向けた。
「帝国の若き獅子、皇太子殿下にご挨拶申し上げます。アルベルト様、お久しぶりにございます。」
「ああ、久しぶりだね。知ってると思うけど、今日は僕の側近も連れてきたんだ。」
「アルベルトの側近を務めているヴィルヘルム=ノルバンディスだよ。」
「ノルバンディス様、エリザベート=ランドンです。」
「ヴィルヘルムでいいよ。」
「ですが…」
「リズ、名前で呼んでも誰も咎めたりしないわ。」
「皇太子でもある僕が認めるから平気だよ。」
「では、ヴィルヘルム様。」
「ああ。俺もエリザベート嬢と呼ばせてもらってもいいかな?これから、会うことも多いと思うから宜しく。」
「はい。
サーラ様、そろそろアルベルト様と踊ってきてくださいませ。」
「分かったわ。
そうだ!リズ、ヴィルヘルム様と後で踊ってはどう?」
「「えっ!?」」
サーラの提案に私もヴィルヘルムも驚いた。
「ヴィルヘルム様にもリズにも婚約者はいないのよ?いいじゃない!?」
「それはそうですが、ヴィルヘルム様のように素敵な御方と踊るだなんて…」
「エリザベート嬢、君さえよければ踊ってくれないかな?」
「ふえっ!?は、はい!よ、喜んで!」
私の声は裏返っていたと思う。
「はは。君は可愛らしいね。」
「ヴィルが令嬢を誘うところを初めて見たよ。サーラ行こうか?」
サーラたちはダンスをしに行ってしまった。
そして私はアルベルトの発言は本当だろうか考えていた。公爵家の嫡男で皇太子の側近、次期宰相のヴィルヘルムは帝国でモテていて、令嬢の扱いには長けていると思っていた。
「エリザベート嬢、何か勘違いをしているようだから訂正しておくけど、俺はモテたことはないから。」
「えっ?」
「俺は目つきが悪いし、基本的にぶっきらぼうだから令嬢からは嫌厭されやすいんだ。」
「そうですか?目つきならばわたくしも悪いですわよ?」
「そうかな?悪いとは思えないけど?」
「ふふ。神殿では前髪を下ろして、目を隠しています。顔を出す際はメークで何とかしていますから。」
「なるほど。それとダンスを誘ったのも君が初めてだよ。」
「光栄です。」
サーラたちのダンスが終わったので、私もヴィルヘルムと共にダンスをした。
「ヴィルヘルム様、やはりお上手ですわ。」
「そうかな?踊り慣れていないから心配していたけど。」
「こんなに踊りやすい殿方は初めてです…。」
「ん?そうか。それは光栄だね。」
ヴィルヘルムとのダンスは何だか夢見心地だった。
過去、ジュードと幾度となく踊ったが緊張していたのもあって楽しいと思えたことはなかった。
それでもヴィルヘルムとのダンスはもっと踊りたいと思えた。
「あの、アルベルト様やヴィルヘルム様は先程ジュード様が仰っていた神殿でのわたくしの行いは真実だと思われますか?」
「ん?そんなわけないでしょ。だって、俺は…」
「俺は…?」
「な、何でもない!
もしジュード殿下の言葉が本当であれば、君はこんなに堂々としていないだろう?
サーラ様から君のことは煩い程聞かされているから、君が国民の為に働いていることを知っている。
だから、嘘を吹聴したのはあの子爵令嬢でジュード殿下はまんまと騙されてしまった。と俺もアルベルトも分かっているよ。」
「ありがとうございます…。」
「さっ、笑顔でダンスを終えようか?」
「はい!」
ダンスが終わり、一礼すると拍手が起こる。
「リズ、素敵なダンスでしたわ!」
「ヴィル、ちゃんと踊れたんだな?」
サーラとアルベルトがニコニコしながら私たちに近寄ってきた。
「リズ、踊り疲れてしまったかしら?」
「いいえ、そんなことはありません。」
「そう?でもあちらで休憩しながら少しお喋りしましょう?アル様とヴィルヘルム様も。」
「はい。」
「サーラ、侍従に頼んでエリザベート嬢のご両親を呼んでもらえるかい?少し話したい。」
「はい、アル様。」
その後、侍従と私たちの所に来た両親は恐縮していたが、ヴィルヘルムもアルベルトもサーラから如何に私が必要かを力説されていたらしくその話をして帝国行きを了承してもらった。
「ランドン伯爵、伯爵夫人。わたくし、エリザベートをあなた達から取ってしまったのではないかって心配なの…」
サーラは眉尻を下げながら両親に伝えた。
「サーラ殿下、何れ娘は嫁ぐために家を出ます。それがこの王国から帝国になってしまっただけにございます。
寂しいと思わないと言ったら嘘になりますが、一生会えないわけではありませんから。」
「サーラ殿下、娘のこと、そしてわたくしたちのことまで考えてくださって、ありがとうございます。」
「サーラ様、両親のことまで慮ってくださりありがとうございます。」
「ううん。だってわたくし、リズのこと大好きですもの!」
「サーラ、その発言は女性相手でも嫉妬してしまうな。」
「アル様への好きとリズへの好きは違いましてよ?」
「ふふ、アルベルト様はご心配なのですよ?
お父様、お母様、そろそろお暇しませんか?
わたくし、少し疲れてしまったみたいです…。」
「そうしようか。」「そうさせていただきましょうか。」
流石に婚約破棄だけでも大変だったのに帝国の皇太子との会話や公爵子息とのダンスに疲れてしまった。
「サーラ様、アルベルト様、ヴィルヘルム様、お先に失礼させていただきます。」
「ええ、ゆっくり休んでちょうだい。また報せを出すから登城してね?」
「エリザベート嬢、また。」
「エリザベート嬢、また会おう…。」
3人と挨拶を交わして両親と帰宅した。