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高位貴族が入場を終えて、隣国のアルベルト皇太子とその従弟にして側近のヴィルヘルム=ノルバンディス公爵子息も入場した。皇太子はサーラ王女の婚約者でもある。
ふたりの入場で会場にいる令嬢たちが色めき立つ。公爵子息に婚約者がいないのは有名だからだろう。
そして、王族の入場が告げられ、参加者たちはカーテシーする。
「皆、面をあげてくれ。今日は集まってくれて感謝する。また、帝国よりアルベルト皇太子とノルバンディス公爵子息が来てくれたこと誠に嬉しく思っている。
今日は皆に報告がある。
以前から第二王子アランの成人を待って王太子を発表すると言ってきた。
王太子は第一王子ジュードとすることを決めた。」
「はい、国王陛下。王太子の任、然とお受けいたします。」
割れんばかりの拍手が巻き起こる。
私も目に涙を浮かべて拍手を贈る。
「只今、国王陛下より王太子の任を仰せつかった。
皆、これからも僕のことを支えてほしい。
そして…」
ジュードが参加者に向けて言葉を述べているのを離れた所から見ていた私に彼は衝撃的な一言を発したのだ。
「そして、僕は新たなる婚約者を紹介したいと思う!
クラリス、おいで?」
参加者全員が「えっ!?」となっただろう。当事者である私も理由が分からなかった。だが、城へ着いたときに側近のトマスが微妙な表情をしていた理由はこれだったのだと確信もした。
「はぁ〜い、ジュード様ぁ〜!」
クラリスが甘ったるい声で返事をしてジュードの横に並び立つ。
「知らない者もいるかもしれないなが、クラリス=ディルス子爵令嬢だ。僕は彼女の直向きさに真実の愛を知った!そして、僕は真の聖女であるクラリスを婚約者とすることを宣言する!
今まで婚約者だった、エリザベート=ランドンとの婚約は破棄だ!」
会場が騒然となり私に視線が向く。
「国王陛下、発言をお許し願いますか?」と許可をとり私は話始める。
「ジュード様、一つお伺いいたします。クラリス様が真の聖女というのはどういうことでしょう?
あっ、もちろんわたくしは聖女ではないですが。」
「エリザベート、見損なったよ。僕は君がクラリスから手柄を横取りしているのを知っているんだ。」
「手柄を横取りですか?」
「そうだ。君は簡単な患者のみ看てクラリスが重傷の患者を見ていると神官たちから告発があった!
更には時折作成している塗り薬や貼り薬もクラリスの物を盗んで自身が作ったと偽っているそうではないか!?」
私には何一つとして心当たりはない。
「わたくし、いつもいつもエリザベート様に平民の患者なんて看たくないから、クラリス様がやってくださいね?って言われていたんです。
薬も作ったら確認するから持ってきてと言われたので、持っていったら自身で作ったと神官に言っているのを聞いてしまって…」
クラリスは涙を拭く素振りをみせた。
「エリザベートは聖女などと呼ばれ、有頂天になっていたんだ!
そんな女とは結婚出来ない!だから、婚約は破棄させてもらうぞ!」
「…婚約破棄、謹んでお受けいたします。
力及ばず申し訳ありませんでした…。」
私にはそれを言うのが精一杯だった。
「それと、もう、君は神殿に来なくてもよくなった。
全てクラリスが患者を看れるし、薬も作れるからね。」
「そ、そんな…!!」
「わたくしがエリザベート様と同じ所で働きたくないと申し上げたの!もう貴女と一緒には過ごせないの!ごめんなさい!」
「エリザベートよ、国外追放にならないだけ有り難いと思ってくれよ?」
「エリザベート、神殿を辞めるのであればわたくしと帝国へ行きましょう!」
周りの雰囲気がジュードを祝ってよいものか分からなくなったとき、サーラが叫んだ。
「サーラ様!?」
「ね、エリザベート。わたくしと帝国へ行きましょう!ね、アルベルト様、宜しいですよね!?」
サーラは私のことを高く評価しているのは知っていた。
それは兄の婚約者だからということではなく、従姉妹(サーラの母は国王の側室)として姉のように私を慕い、妹のように甘やかし、私から魔法を学んでいたからだろう。
そんな彼女は婚約者でもあるアルベルトに私を連れて行く許可をこの場で貰おうとしている。
「もちろん。サーラの願いは何だって叶えてあげるよ?でもね、サーラ。エリザベート嬢にもちゃんと訊いてみないと駄目だよ?」
「はぁい。ね、エリザベートはどう?」
「えっと…どう?と問われましても…」
私は両親に視線を向ける。ふたりとも私が決めればいい。と目で言ってくれているようだった。
「サーラ様、わたくしのような未熟な者がお側に侍っても宜しいのでしょうか?」
「当たり前だわ!わたくし、ジュードお兄様よりもエリザベートのことが好きですもの!」
「ふふ、サーラ様ったら。
わたくしで宜しければ、お側に置いてくださいませ。」
「やった!お父…国王陛下、そういうことなので、ジュードお兄様との婚約破棄の手続きを速やかに行ってくださいませ!でないと国外へ出れませんもの!」
国王は側室(寵妃)の子であるサーラの言うことは何でも叶えてきた。
「エリザベート嬢よ、我が娘と帝国へ行ってくれるな?」
「はい、国王陛下。誠心誠意お仕えすることを誓います。」
「ふう…。
今この場で王太子ジュードとエリザベート嬢の婚約を白紙にする。またエリザベート嬢には王女サーラの輿入れに付き従うことを命ずる。
時間をかけたが、パーティを楽しんでいってくれ!」
国王の言葉が締められ、音楽が流れ始める。
ジュードとクラリスが踊っている間にサーラが私の側までアルベルトとヴィルヘルムとやってきた。