18
「ヴィル…」
「エリー、大丈夫だ。皆様、私たちの式を再開したいと思います。
大神官様、宜しくお願いします。」
ヴィルの言葉に立ち上がっていた参列者たちは着席し、私たちに注目している。
「コホンッ。
愛の女神エーリヤの名のもとに、今ここに汝らを夫婦と認めるためにヴィルヘルム=ノルバンディス、エリザベート=ランドン、誓いの言葉を。」
「ヴィルヘルム=ノルバンディスはエリザベート=ランドンに生涯変わらぬ愛を捧げることを女神エーリヤ様に誓います。」
「エリザベート=ランドンはヴィルヘルム=ノルバンディスに生涯変わらぬ愛を捧げることを女神エーリヤ様に誓います。」
光が大聖堂を包む。
「誓いの言葉は女神に捧げられ、汝らは夫婦となった。
汝らに女神の祝福が多からんことを。」
「エリー、愛している。」
「わたくしもよ、ヴィル。」
ヴィルと女神の像の前で口づけを交わす。
私は幸せで心が満たされていくのを感じ再度ヴィルを見つめる。
「エリザベート、とても綺麗でこれ以上他の参列者に君を見せたくなくなる。
何処かに閉じ込めてしまいたくなるよ。」
「ふふ。ずっとふたりだけの空間もいいかもしれないわ。」
「幸せにするよ。」
「わたくしも貴方を幸せにするわ。」
「君が幸せならば俺は幸せだよ。だからたくさん幸せになってほしい。」
再度交わした口づけは先程よりも長く、熱が伝わってきそうなほどだった。
………
結婚式後、公爵邸の離れ。
今までは婚約者の立場であり本邸に私室が与えられていたが婚姻したので、歴代の次期公爵夫妻が住むことになっている離れでヴィルと暮らしはじめることになっている。
「若奥様、ご準備が整いました。」
「ネフィ、アンネありがとう。」
私は今薄い夜着を纏っている。こんな薄い夜着で夫婦は初夜を迎えるものなのかと少し驚きもあったが、ネフィたちに訊いたら「普通にございます!」と返された。
ふたりが去った後に扉がノックされた。
「エリー、入るよ?」
「はっ、はい!!」
ヴィルの私室側の扉が開かれ、彼とソファーに座る。
「今日はお疲れ様。」
「ヴィルもお疲れ様。」
「ローズ嬢がごめんね…?」
「貴方を譲るつもりはないけど、好きな人が他の人とっていうのは堪えるわ…。」
「うん。俺も君が王太子と婚約したときは堪えたよ。側近の仕事を放り出した。」
「そうなの!?」
「一ヶ月くらい部屋に引きこもってた。」
「ふふ。わたくしと殿下は政略だったのに。」
「それでもだよ。」
彼は私の頬に手を滑らせる。
「好きな人が違う男の横で微笑んでいるのを見るのが辛かった。でも、側近として王国へ行くこともあって、君を見かける度に心が痛かった…。」
私の口唇に彼の口唇が優しく重なる。
「でも、俺の元へ来てくれた…。」
彼に抱えられてベッドに沈み込む。
「そして、想いが通じ合った。」
先程よりも強めに口唇が重なる。
「ヴィル、貴方を愛しているわ…。」
「俺も、君を愛している…。」
私は彼の全てを受け入れた。
「もう、君を離してやれない…。」
「ずっと傍にいるわ…。」
私が眠ったのは空が白み始めた頃だった。
………
ヴィルと婚姻してからは前以上に平和な日々が続いた。
私が婚姻して少し経った頃、サーラは無事に皇子を出産した。
「エリザベートちゃん、何だか顔色が悪いわよ…?」
義母とお茶をしていると問いかけられる。
「お義母様、少し休んで参ります…」
立ち上がると頭がクラクラして倒れそうになるのを執事が支えてくれる。
「ごめんなさい…。」
「若奥様、大丈夫ですか!?」
「ええ…。」
「エリザベートちゃん、治癒魔法を…」
「お義母様、実は最近上手く魔法が使えなくて…」
「そうだったのね…。ヴィルヘルムには連絡しておくわ。ゆっくり休んでね?」
「はい…。」
私が休んだ後、「医者の手配をお願い。」と義母は執事に指示を出してから、皇城にいるヴィルへ報せを出してくれた。
そして…
「おめでとうございます、若奥様。」
「先生、どうもありがとうございます。
エリザベートちゃん!おめでとう!」
私の懐妊がわかった。義母はウキウキだ。
「恐らく、魔法が上手く使えなかったのはお子様を宿していたからではないでしょうか。」と医者は告げて帰っていった。
医者が帰ってから数刻してからヴィルが帰宅した。
「エリー!」
「ヴィル。おかえりなさい。」
「エリー、体調は!?」
「ヴィルヘルム、静かになさい。エリザベートちゃんは…」
「何か病気なのかい!?」
「病気ではないわ。」
「では、医者は何と?」
私はヴィルの手を取り、お腹に当てた。
「えっ…?」
「ふふ。」
「ほ、本当に…!?」
「ええ、本当よ。」
彼は私を優しく抱きしめる。
「とても嬉しいよ。」
「うん…。ヴィル、もう少し休むわね?」
「ゆっくり休んで、また話をしよう。アルベルトやサーラ様への報告は先にしておく。落ち着いたら君からサーラ様に報せをすればいい。」
「分かったわ。ねえ、ヴィル。眠るまで手を握っていて?」
「もちろんだよ。ゆっくりおやすみ。俺のエリザベート。」
ヴィルが額に口づけをすると何だか元気が出たような気がしたが、眠いのはどうしようもなかった私は夢の世界へ誘われた。