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「そう…。わたくしが寝ている間にそんなことが…。」
「ええ。アル様がわたくしと婚姻することで即位が早まると予想したのと、貴女がヴィルヘルム様の婚約者となったことで焦ったそうよ。」
「そうだったのね…。」
「でも、皇子は皇位に興味はないし皇女もヴィルヘルム様を好いていたわけではないらしいから、側妃様の独断なのは明らかだったの。」
「ふぅー…。」
「皇女がヴィルヘルム様をお慕いしてなくて安心した?」
サーラは私に問いかけた。
「ええ。いくらわたくしが婚約者でも相手が皇女だったら…って少し考えたわ。」
「まあ、無理矢理にリズとヴィルヘルム様の婚約を破棄しようものならば、わたくしたちが黙っていないし、ヴィルヘルム様ならば皇女と結婚するくらいなら家を出るとか言い出しそう。」
ふふ。と笑いながらサーラが話す。
「確かにヴィルならば言いそうね。」
「そうでしょう?」
私はサーラと笑いながらティーカップを手に取る。
その手は震えている。
「サーラ、わたくしが先に飲むわ。」
「えっ!?」
「震えている。」
「そ、そんなことは…。」
「大丈夫よ。魔力も回復しているし、直ぐに自身に治癒魔法をかければいいのだから。」
そう言って私は紅茶を口に含む。
「もう、貴女を害する者はいないわ。アルベルト様が赦さないもの。」
「ありがとう、リズ。」
私たちは楽しくお茶をすることができた。
そして、数日後にはノルバンディス邸へ戻ることになった。
屋敷へ戻ると義母は泣きながら私を抱きしめ、ヴィルと同じ様に私のことを誇ってくれた。
………
時は(かなり)経ち…私が帝国へ来て、もうすぐ2年になる。
そして、今日はやっと私とヴィルの…
「エリー、とても綺麗だよ。」
「ありがとう、ヴィル。貴方はとても素敵よ。
そのカフス、わたくし瞳の色にして正解ね。」
「ああ。君のイヤリングも俺の瞳の色でとてもよく似合っているよ。」
「ねえ、ヴィル、わたくしこんな幸せでいいのかな…?」
「もちろん。というか、これからもっと幸せになるんだよ、ふたりで。」
「ふふ。そうね。」
結婚式が執り行われるのだ。
本当はもう少し早い段階(サーラたちの挙式後)で式を挙げてしまう予定であったが、サーラの懐妊がわかり私とヴィルで落ち着くまでは式を挙げないことに決めた。
もちろん、王国にいる両親や義父母、皇帝夫妻にサーラたちにもそこまでしなくても。と言われたけれど、サーラの安定期を待って行うことにしたのだ。
「若旦那様、若奥様。お時間にございます。」
「ああ、今行く。エリザベート、行こうか?」
「ええ。」
まだ若奥様と呼ばれるのは慣れていない…。
でも、義父である公爵は近いうちに爵位を譲って領地で義母とゆっくり過ごしたいという夢があるらしい。
私が公爵夫人として、社交界に出る日も近いのかもしれない。
ヴィルと並んで大聖堂に入場し、大神官の前に立つ。
「愛の女神エーリヤの名のもとに、今ここに汝らを夫婦と認め…」
大神官の言葉が終わる瞬間に場にそぐわない声が響いた。
「こんなの認めないわ!その女にヴィルヘルムお兄様は相応しくない!」
参列していた皇太子夫妻をはじめ、両親も義父母も声のした方を見た。
「ローズ=バーナ。神聖な式に何たる暴言をっ!」
ヴィルの従妹であるローズが真っ赤な顔をして立ち上がっていた。
(因みにローズは私たちの婚約披露パーティに一応は呼んでみたが、父親であるバーナ侯爵の判断で欠席していた。)
そんな彼女は皇太子であるアルベルトの言葉を無視して言葉を続けた。
「エリザベートさんが現れなければ、わたくしがヴィルヘルムお兄様と結婚するはずだったのよ!?
返してよ!わたくしのヴィルヘルムお兄様を返してっ!!」
「ローズ嬢、俺は君に恋愛感情を抱いたことは一度もない。」
「そんなっ!?酷いです!!わたくしをお嫁さんにしてくれると…」
「そんなことを一度も言ったことはない。」
「酷い…そんなこと言うお兄様ではなかったのにっ!やはりエリザベートさんのせいなのよっ!
昔の優しかったお兄様を返してよっ!!」
「ローズ様、それは出来ないわ。わたくしにはヴィルヘルム様しかいないもの。
昔、自信をなくしていたわたくしを少しの言葉だけで救ってくれた彼をずっと想っていたのだから。」
「わたくしのほうがずっとヴィルヘルムお兄様に相応しいのよっ!」
聞く耳を持たないローズ。
「では、ローズ様。貴女は帝国の家臣として何かを行っている?」
「はあっ!?してるわけないでしょ!?令嬢が働くなんてしないわ!令嬢は結婚をして社交するのが仕事であって…」
「わたくしはまだ籍が王国にあるうちから、帝国の神殿に薬の製作を指揮したり、化粧品の製作販売ルートを確保していました。
ローズ様のご使用の化粧品や美容クリームの中にもわたくしが携わった物があるはずですわ。」
そう。私は帝国へ来てからただ社交して治癒魔法を使っていただけではなく、友人であるアイシラの実家であるコレッソ侯爵家の協力の元、帝国中に私のくすりを販売していたのだ。
「わたくしはヴィルヘルム様との婚約を決めた時点で帝国の家臣として忠誠を誓っているのです。
ただ、社交をしてお茶を飲んで、ダンスをしていただけではないのですよ。」
「そんな…そんなの…だって…令嬢が商売を…」
「バーナ侯爵、ご息女の育て方を間違えたようですね…。」
「申し開きもございません。式を中断させてしまい申し訳ありませんでした。娘を連れて帰ります。」
侯爵はローズを引っ張ると大聖堂を出ていった。