16
部屋にはヴィルとふたりきりだ。
「さて、エリー。ネフィたちを寄越すから数日はここに滞在するからね?」
「わかったわ。」
返事をするとヴィルが私を抱きしめる。
「ヴィル?」
「…とても心配した。」
「うん…ごめんなさい…。」
抱きしめられる腕に力がこもる。
「本当は…とても…怖かった…。」
「うん…。」
「自身の治癒よりもサーラを優先したことに後悔はないわ…
でも、薄れゆく意識のなかでヴィル…貴方の顔が浮かんだの。」
「俺の?」
「ええ。貴方とこれからもっといろいろなことをして過ごしたかったのに、こんな所で…って。」
「君が無事で良かった。確かに、臣下としてはサーラ様を優先させた君の行いは素晴らしいと思う。
俺でもアルベルトに危機が及んだらアルを優先するはずだ。だが、それは思っているだけで本当に自身よりも他人を優先させたエリーを俺は誇りに思うよ。」
「ありがとう…。」
「また明日来るから、ゆっくりお休み…。俺のエリザベート。」
そう言ってヴィルは私の額に口づけを落とす。
「また、明日来てくれるのでしょう?」
「もちろん。」
「待っているわ。おやすみなさい、ヴィル。」
私は目を閉じて眠りについた。
………
「うーん…。」
カーテンから入り込む日差しに私は目を覚ます。
「エリザベート様、お目覚めですか?」
「ネフィにアンネ、おはよう。」
「報せを聞いたときは驚きましたわ…。」
「生きた心地がしませんでした…。」
「心配かけてごめんなさい。」
その後話をしながら支度をしてもらっていると城の侍女がやってきた。
「エリザベート様、後程サーラ様がお越しになりたいとのことです。」
「分かりました。サーラ様にいつでも。とお伝えくださいますか?」
「承知いたしました。」
「リズ、昨晩はよく休めたかしら?」
「ええ、体調もいいみたい。」
「昨日は本当にありがとう。それにごめんなさい…。」
「どうして、サーラが謝るの!?」
「夜中に毒を盛った犯人が捕まったの…」
「そう!良かったわ!」
「…」
「どうかしたの…?」
「実は…」
………
(エリザベートが眠った後)
「ヴィルヘルム、彼女は?」
「ああ、アルベルト。大丈夫だ、眠ったよ。」
ヴィルヘルムはアルベルトの執務室に戻った。
「捕えた侍女はエリザベート嬢に命令されてサーラに毒を盛ったと話したそうだ。」
「ちっ!見え透いた嘘だな。
アルベルト、取り調べの続きは俺がやってもいいだろうか?」
「元よりそのつもりだ。」
「早速で悪いが会わせてもらえないだろうか?」
「分かった。やりすぎるな?」
「………」
「お前の気持ちはわかるが、落ち着け。」
「善処する…。」
ヴィルヘルムは執務室を後にし、侍女の元へ向かったが先に取り調べを始めていた部下からはエリザベートが命令したと訴えた以外には黙秘を続けていると報告を受けた。
部屋に入ると侍女がヴィルヘルムを睨んでいる。
「俺の婚約者が犯人だという以外に話す気になったか?」
「ありえませんね。」
「そうか…。残念だよ。俺…いや、俺たちはお前が誰からの刺客かわかっている。」
「で、出鱈目をっ!?」
「出鱈目かどうか試してみるか?」
不敵な笑みを浮かべたヴィルヘルムは侍女の前に瓶を置いた。
「この瓶、知っているな?」
「どうしてそれをっ!ちゃんと片付けた…!!」
「綺麗な装飾がされているからと、捨てられていたのを洗濯係の下女が拾ったのだ。売って金にすると言っていたが回収し、残っていた成分を調べエリザベートの身体に残っていた毒と同じ物が検出された。」
「そ、そん…な…。」
「そしてこの瓶の装飾は実に特徴的であり、側妃様の国でしか扱えないものだ。」
「……」
侍女は項垂れるかヴィルは言葉を続ける。
「お前は側妃に命令されて、サーラ様とエリザベートを亡き者にしようとしたのだろう?
理由は側妃の娘である皇女を俺の婚約者にしたかったのと、皇太子殿下とサーラ様が婚姻してしまっては第二皇子殿下の帝位が遠のくからだろう。違うか?」
第二皇子はアルベルトには劣るが優秀で、第二皇子を皇太子にと推す派閥が未だにある。
「…」
「お前も脅されているのだろう?人質が取られているとか?」
「…弟を…側妃様の…慰みにさせられそうに…
やらないと…エリザベート様に命令されたと言いなさいと…」
「ちっ!予想通りか。
お前の弟を助ける算段はある。が、お前が皇太子妃に毒を盛った事実は消えない。しかし情状酌量されるだろう。沙汰があるまでは大人しくしていろ?そして、質問されたらしっかりと答えろ。いいな?」
泣いている侍女を女性騎士に任せてヴィルは再びアルベルトの執務室へ戻った。
この時間、僅か数十分の出来事である。
「アルベルト、答え合わせは終わった。」
「その顔は合っていたようだな。では、夜ではあるが、行こうか?」
「はい。」
そして皇帝に証拠を提出後、皇帝の名のもとに側妃を呼び出す。
最初は知らないの一点張りであったが、以前から影の報告もあり、認めざるを得なくなった。
サーラは他国の王族であり、皇太子の婚約者である準皇族。そんな彼女に毒を盛ったのだ。しかし、サーラ本人の執り成しもあり、国際問題に発展しないように配慮がされた。
皇子と皇女には真実は伏せ、側妃は病気療養ということにした。そしてふたりは他国へ婿や嫁に出すことになった。