12
(ヴィルたちが応接室に向かった直後)
「さて、エリザベートちゃん。息子のことありがとうね?あの子が皇太子殿下の側近として王国へ行って、帰ってきたかと思ったら、貴女の話をしてね。
ふふ。顔つきを怖がられていたあの子が初めて好きな子が出来たと嬉しそうに言ってきたのよ。」
「ヴィルが…」
「昔はあの視線に怖がられて同年代の令嬢から泣かれることが多かったのよ?でもね、あの子は人一倍優しい子なの。」
「はい。昔わたくしを助けたくれたときも、パーティで助けてくれたときも、とても優しくて…。」
「それで好きになっちゃったのね?」
「は…はい…。」
私は恥ずかしくて俯く。そんな私を「ふふ。可愛い。」と見つめる義母。
そんなとき、サロンにヴィルが戻ってきた。
「あら、ヴィルヘルム。お客様はお帰りになったの?」
「はい、母上。挨拶だけして父上に許可をもらって戻ってまいりました。」
「では、エリザベートちゃんに話してもいいのではなくて?」
「はい。あのね、エリー。俺の母方の実家であるバーナ侯爵家の当主とその娘が来たんだ。」
「はい。」
「わたくしの異母兄様は昔から皇家と縁付かせたいために、自身の娘をアルベルト皇太子殿下かヴィルヘルムの正妻の座に就かせたがっていたのよ。
皇太子殿下はサーラ王女殿下と婚約をしたでしょう?
ヴィルヘルムとの婚約の話はわたくしがアーサー様に嫁いでいるから難しいと周りは判断しているのだけど…」
帝国では甥、姪と自身の子供を婚姻させることは珍しいことなのだ。
「そうだったのですね。」
「アルベルトの婚約が決まってからバーナ侯からは娘はどうかとずっと言われていたんだ。面倒でならなかったけど…。」
「ローズ嬢はヴィルヘルムへの気持ちを隠しもしていなくて、最近、婚約者に内定したと社交界で吹聴しているのよ…。」
「では、ヴィル様が話していた侯爵令嬢って…」
「ああ、彼女のことだ…。」
「でも、アーサー様が今も牽制しているし、エリザベートちゃんのお披露目もするから…」
「奥様!大変にございます!」
話途中にも関わらず使用人がサロンへ入ってきた。
「何事です?」
「バーナ侯爵様がお倒れに!」
「持病の再発…!?お薬は!?」
「どうやら出先で服用してしまったとかで!」
「エリー、手伝って!」
「ええ!」
私とヴィルは手を繋ぎサロンを飛び出し、侯爵の元へ向う。そして到着すると青い顔をした侯爵がいた。
「バーナ侯爵様、大丈夫ですか!?今、治癒を…!」
手を翳そうとすると誰かの手が私の手を止めた。
「ちょ、ちょっと貴女!素人が治癒魔法なんて止めてよ!お父様が死んだらどうするの!?
しかもヴィルヘルムお兄様と手を繋いできて、何様なの!?」
私は「あっ、この方が件の侯爵令嬢ね…。」と思ったが、少し力を込めて彼女を振り払った。
「痛っ!!何するのよっ!?」
「静かにしていてください。一回で治すには集中が必要なのです。
ヴィル、治癒をしている間に使用人たちで彼女の拘束を!」
「ああ。」
ヴィルの指示で騒いでいたローズが静かになる。
「ふー…。はっ!!」
侯爵に治癒魔法を掛けること数十秒、侯爵の顔色が少しずつ戻ってくる。更にその数十秒後に侯爵が目を開けた。
「…うっ……君…は?女神…か?」
「バーナ侯爵様、お加減はいかがですか?」
「私は苦しんでいたはずなのに、全く苦しくない?」
「わたくし、治癒魔法が得意ですので。」
「ありがとう。それより君は?」
「僕の婚約者になるエリザベート=ランドン嬢ですよ。」
「そうか…先程閣下が仰っていた令嬢か…。」
「あの、エリザベートですわ。バーナ侯爵様がご回復されて良かったです。」
「ああ、助かったよ。騒がせた。これで失礼するよ。
ローズ、帰るよ?」
「嫌よ!そんなどこの馬の骨かわからないような女にヴィルヘルムお兄様は渡しませんわ!
わたくしも今日から…」
「すまないが、そのまま娘を運んでくれるかな?」
侯爵はローズを拘束していた使用人に馬車まで運んでもらい帰っていった。
「エリザベートちゃんの魔法は凄いのね。」
「いいえ、そんなことは…」
「誇っていいのよ?」
「…ありがとうございます、お義母様。」
「さて、エリー。君のために用意した部屋に案内しよう。」
「わたくしのために…?」
「エリザベート、ヴィルは君が王太子殿下と婚約破棄した時点で君を帝国へ連れてくるつもりで、部屋を用意させていたんだ。」
「えっ!?」
「ふふ。驚くでしょう?」
「父上、母上止めてください!エリー、すまない…」
「あの…ヴィルの気持ち、とても嬉しいわ。」
私は少し恥ずかしくなりながらも、ヴィルを見つめる。
「エリー、可愛すぎ…。行こうか?」
「ええ。」
ヴィルの手を握り案内してもらう。
着いた部屋は落ち着いた色合いの素敵な部屋だった。
何故かとても私の好みのどストライクだ。
「素敵…。」
「気に入ってもらえて何よりだよ。屋敷内の案内はまた明日にしよう。それと…」
「本日より、エリザベート様のお世話をさせていただくことになりました、アンネにございます。」
「同じくネフィにございます。」
そっくりな顔のふたりの使用人が入ってきて挨拶をしてきた。
「使用人まで…ありがとう、ヴィル。」
「では、晩餐のときに迎えにくる。準備を頼む。」
「「承知いたしました。」」
ヴィルが部屋を出たので、アンネとネフィに挨拶をして、話しながら着替えの手伝いをしてもらった。
そして、リラックスしてノルバンディス公爵邸での初めての晩餐を乗り切ったのだった。