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久しぶりの新作です。宜しくお願いします。
「では、治癒魔法をかけていきますね?」
私は患部に手を翳して『ヒール』と唱えた。
「聖女様ありがとうございます!この子が治ったのはあなた様のお陰です!」
「どういたしまして。それと、わたくしは聖女ではありませんからね?」
否定する私の声も聞かずに親子は去っていき、次の患者が入室してきてしまう。
私の名前はエリザベート=ランドン。この王国の侯爵令嬢だ。治癒魔法の使い手として神殿で人々の傷を癒やす毎日である。
魔法を使う際に銀髪が光輝き神々しい姿だと神官の誰かが言い始めたことにより『聖女』と呼ばれるようになってしまった。
しかし訂正しているのにも関わらず、聖なる力を神より賜った乙女だ!と治癒を受けた人々が言うものだから患者は増える一方なのだ。
「本日の患者は以上です。エリザベート様。」
「分かりました。では、本日は帰りますね。」
「はい、お疲れ様にございました。」
神官から終わりが告げられたので帰宅の準備をする。
「エリザベート、いるだろうか?」
片付けをしていると扉の向こうから婚約者の声がした。ジュード=シュヴァル。この国の第一王子である。
「ジュード様?今、開けますわ。」と扉を開け、私は笑顔で出迎える。
「邪魔しただろうか?」
「いいえ。帰る準備をしていたところです。」
「そうか。いつも遅くまで民の為にありがとう。」
「わたくしが貴方様の為に出来るのは治癒魔法で一人でも多くの人を救うことだけですから…。」
「エリザベート、そんなことはないよ?僕は君といると、とても癒やされているのだから。」
「ふふ。ありがとうございます。」
「屋敷まで送るよ。」
「ありがとうございます。」
彼は時折、神殿へやってきて私の心配をしてくれる。
だから、私とジュードの関係は良くも悪くもないと思う…。
ランドン家の歴史は古いが、伯母が現国王の側室であるために彼の婚約者に相応しくないと貴族から言われているのも事実。
だからこそ、私は神殿で治癒を行い彼の役に立ちたかった。
「エリザベート、無理はしていないか?」
「大丈夫です。魔力量は多いですし、楽しいです。」
「そうか。あまり無理はしないでくれよ?」
「はい。」
「今日は君に用事があったんだ。父上が再来月のパーティで僕かアラン、どちらを立太子するか発表すると仰ったんだ。」
「隣国の皇族を招待した席で発表なさるのですね。」
アランとは第二王子のことである。今年成人となる為に国王は王太子をどちらに指名するか決めたようだ。
「ああ。正直、僕自身もどちらが指名されてもおかしくないと思っている。
アランは昔から優秀だったからな…。」
「ジュード様…」
「…すまない。エリザベート、僕はどちらになったとしてもアランと協力して国を豊かにしていくつもりだよ?」
「ジュード様、わたくしも微力ながら尽力させてくださいね?」
「ありがとう。」
そんな話をしながら屋敷に送ってもらった。
………
「エリザベート様、ご機嫌よう。」
「クラリス様、ご機嫌よう。」
翌日、神殿へ着くと早々に同じく治癒魔法の使い手として月に数回だけ来るクラリス=ディルス子爵令嬢に挨拶をされた。
「今日は宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
クラリスは主に貴族の治癒に専念してもらっている。気位の高い彼女に平民の治療はできない。というかさせられないし、本人からも「卑しい平民に高貴な治癒魔法を使うなんて嫌よ!」と言われている。
クラリスもディルス子爵と平民メイドの子で数年前まで市井で平民として暮らしていたが、治癒魔法が使えるという理由で養子となっただけだ。
それなのに何故見下すことができるのか不思議でならなかった。
「クラリス様、お待たせ致しました。参りましょう。」とクラリス付き神官が声をかけてきたので「では、また。」と彼女は去っていった。
「さて、わたくしも準備をしましょう!」
私はポケットから硝子玉を取り出し手に包み祈りを捧げる。
こうすると身体の無駄な力が抜けていい感じになるという曖昧なものだけど、この硝子玉をとある人から貰ってからずっとこうしている。
「よしっ!」と気合いを入れて私はその日の仕事を熟した。
………
あっという間に王家主催の夜会の日となった。
朝からメイドたちに磨かれ、ジュードからの贈り物のドレスを身に纏う。
「エリザベートお嬢様、とてもお似合いです。」
「ありがとう。お父様たちの準備は?」
「もう間もなくかと。」
「分かったわ。では玄関で待っているわ。」
「はい、お嬢様。」
私が玄関へ着くと父は私と母を待っていてくれた。
「リズ、とてもよく似合っているよ。」
「ありがとうございます、お父様。」
「ウォーレン様、リズ、お待たせ。」
「ああ、美しいよマリア。」
「お母様、お綺麗です。」
「ふふありがとう。リズは妖精のように素敵よ?」
「ありがとうございます。」
父ウォーレンと母マリアは恋愛結婚だ。ふたりが大恋愛の末に結婚をしたことは国では有名な話だ。
因みに、私には兄がいるが、隣国の大学へ通っているために今は屋敷にいない。
そして馬車に乗り王城へ向かうも、珍しく私は緊張していた。
ジュードが王太子になるかならないかで私のこれからも変わるのだから当然だ…。
会場に到着し、ジュードの元へ案内されるはずだったのだがジュードの側近が申し訳なさそうに「ランドン嬢…」と声をかけてきた。
「トマス様、どうかされましたか?」
「本日は予定を変更して、王族のみで入場することになりました。つきましては、このままご両親とご入場ください。」
「分かりました。トマス様、報せてくださりありがとうございます。」
「いいえ…。失礼いたします…。」
私はどことなく元気のないトマスが気になったが、そのまま両親と入場した。