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Ⅷ 新生活のはじまり!

「すごい……。綺麗ね……」


 お姉ちゃんが、ため息をもらした。

 わたしもうなずく。


 わたしたちの目の前には、辺境の地リトリアの港町と、その向こうに大きな海が広がっていた。


 無事にわたしたちは目的地について、街に入る直前の山道から、港町を見下ろしている。


 海と山に挟まれたリトリアの街は、とても美しい。赤い屋根に白い壁の特徴的な建物が、何百棟も坂道に沿って並んでいる。

 

 そのリトリアの街が面しているのが、中央海と呼ばれる大陸最大の内海だ。リトリアからは浅瀬が続いていて、光の反射で緑色に綺麗に輝いている。


「わたし、海を見るのって初めて!」


 わたしは隣を歩くお姉ちゃんに言う。

 馬車は目立つし、山がちなリトリア地方には向かないから、もうお金に替えてしまっていた。


 お姉ちゃんは、はしゃぐわたしを見て、頬を緩めた。


「私は外国で見たことがあるわ」


 お姉ちゃんは公爵家の嫡出子で、しかも王子の婚約者だったから、他の国との交流のために何度も外国へ行ったことがあるみたいだった。


 一方のわたしは、ほとんど王国の外に出たことがない。わたしは愛人の子どもだったし、特別な立場もなかったし、旅行に連れて行ってくれる人もいなかったし。


 ちなみに、お姉ちゃんが外国に行っているときは、わたし以外の別の人間が影の護衛を務めていたみたいだ。


 お姉ちゃんは「でもね」とつぶやく。


「こんなに美しい色をした海を見るのは、初めてだと思う。ここなら、私たちも……」


「きっと幸せになれるよ」


 わたしの言葉に、お姉ちゃんは頬を赤らめ、そしてうなずいてくれた。


 リトリアは、リトリア辺境伯領の中心地で、辺境伯の屋敷もここにある。


 辺境伯は王国から強い力を与えられていて、辺境伯領も半分は独立国みたいな感じだった。

 わたしたちが、リトリアを新生活の拠点に選んだのも、それが理由だ。


 辺境伯領は、王国の監視の目が緩い。

 王国軍も辺境伯の許可なく立ち入ることができないし、わたしたちが見つかる危険も低かった。


「本当は外国に逃げられれば、良かったんだけどね」


 わたしのつぶやきに、お姉ちゃんは首を横に振った。


「仕方がないわ。出国者と入国者の管理は厳しいし、外国では言葉も通じないから、目立ってしまうもの」


 外国なら、王国政府にすぐに捕まる心配もないけれど、現実には問題が山積みで簡単には逃げられない。

 だから、リトリアが一番良い選択肢だった。リトリアは半独立国だけど、それでも同じ国の港町だから、入るのも出るのも自由だ。


 貿易のために多くの人が訪れるから、怪しまれることもないし。


 いよいよ、わたしたちはリトリアの街に到着した。

 街は赤い城壁で囲まれている。


 でも、街には名前さえ書けて、怪しい者でなければ入れる。もともとこの国は識字率は高くないので、名前が書けるのは、貴族や貿易商、そして魔術師ぐらいだ。


 わたしたちは偽の名字を使って、街に入った。ソフィアとリディアは、この国ではとてもありふれた名前なので、そのまま使うことにする。


 普段から使い慣れていない名前を使うと、偽名であることがバレて不審に思われるかもしれないし。


「さて、と。まずは長く泊まれる宿を探さないとね」


 お姉ちゃんの言葉に、わたしはうなずく。

 よそ者が家を借りるのはけっこう大変だし、王国はどこも宿代が安い。


 港町のリトリアなら、宿も充実しているし、少女二人が安心して泊まれるところもあるはずだ。


「それに、お金を稼ぐ方法も考えないとね」


 わたしたちは貴族生まれだし、王都出身だ。


 ただの二人の女の子が、この港町に馴染むことができるかな。


 まあ、最悪の場合、わたしが暗殺者稼業の腕を活用するしかないけど、それは最後の手段だ。

 お姉ちゃんのためにも、なるべくまっとうな手段で生きていきたい。


 それに、わたしはそんなに心配していなかった。


「お姉ちゃんも、わたしも、二人とも魔法が使えるから、お仕事には困らないと思うよ」


 わたしたちの最大の強みは、魔法が使えること。

 この国では、ちゃんと教育を受けて、魔法が使えるというだけでも、貴重な人材だ。


「お姉ちゃんの治癒魔法があれば治癒院が開けちゃうし、わたしも細かい魔法が使えるから、魔道具店とかも良いかも!」


「そんなに上手くいくかしら?」


 お姉ちゃんは不安そうにわたしを翡翠色の瞳で見つめる。

 わたしにも、不安がないわけじゃないけれど、わたしは上手くいくと信じていた。


「大丈夫。わたしたちは最強なんだもの。ね?」


 わたしの言葉に、お姉ちゃんはこくりとうなずく。


「そうね。リディアがいてくれれば、きっと大丈夫よね」


 お姉ちゃんは、そう言って、素敵な笑顔を浮かべてくれた。

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