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迷い


 お姉ちゃんは杖をくるりと回す。


「汝を我がしもべに! テイム!」


 赤い魔石が閃光を放ち、ホワイトハウンドへと降り注ぐ。

 ホワイトハウンドは首をかしげると、あまり気にした様子もなく干し肉を食べ続けた。


 き、危機感が薄い……!

 使い魔にしたとき、役に立つのか、わたしは心配になってきた。

 

 ともかく、お姉ちゃんの魔法は成功した。

 これで、ホワイトハウンドが仲間になったわけだ。


 ホワイトハウンドのお腹に、使い魔となったことを示す魔法紋が刻まれている。

 わたし、お姉ちゃん、セレナは恐る恐る、ホワイトハウンドに近づいた。


 ホワイトハウンドは干し肉を食べ終わると、上機嫌な様子でわたしたちに尻尾を振る。

 そして……。


「きゃっ! な、何するの!?」


 なぜかホワイトハウンドは、主人のお姉ちゃんでもなく、セレナでもなく、わたしにすり寄ってきた。

 ぎゅっと抱きつかれ、わたしは目を回しそうになる。なぜか懐かれたらしい。それにしても、うーん……もふもふ。


 お姉ちゃんとセレナは顔を見合わせる。


「このホワイトハウンド、オスじゃないわよね?」


「女の子みたいですよ」


 そんなことをお姉ちゃんたちは冷静に話し合っていた。

 わたしは叫ぶ。


「このポンコツ魔獣をわたしから離して~!」


 お姉ちゃんとセレナはホワイトハウンドをわたしから引き剥がした。ホワイトハウンドはがっかりという様子になる。

 酷い目にあった……。


 お姉ちゃんはくすくす笑う。


「リディアったら、懐かれてて羨ましい」


「全然良いことないよ……」


「ええと、使い魔にしたら収納もできるのよね」


 お姉ちゃんが杖を一振りすると、ホワイトハウンドは姿を消した。

 もともと魔獣は魔力の源、エーテルの塊のようなものだ。だから、実体を消すこともできるんだろう。


 今後は必要なときに、呼び出すということになる。

 もっとも戦闘に役立つかは微妙だから、荷物持ちみたいな扱いになるんだろうけど……。


 セレナもご機嫌な様子だった。


「これで目的も果たしましたし! もふもふも可愛がれるし! 完璧ですね! さあ、あとは早く帰ってゆっくり……」


 そのとき、「きゃああああっ!」という甲高い悲鳴が森の奥から響いた。

 女冒険者の声だろうか。でも、リトリア大森林のこのあたりではさほど強い魔族は出ないはずなのに。


 わたしは一瞬、どうしたものか、と考える。冒険者同士はなるべく助け合ったほうが良いとされる。けれど、義務というわけでもない。

 危険がありそうなら、さっさと撤退するのも手だ。わたし一人ならともかく、セレナやお姉ちゃんも危険にさらされるかもしれない。


 セレナも「救援は見送りますか?」とわたしに意見を求める。

 だけど、わたしより、セレナより、お姉ちゃんが先に動いた。


 お姉ちゃんは森の奥へと飛び込んでいく。


「お、お姉ちゃん!」


 わたしとセレナは慌ててお姉ちゃんの後を追った。

 フィロソフォス公爵家の嫡女たる者、危難に遭う者を見捨てるべからず。


 貴族の娘として、また王妃候補として、聖女として、お姉ちゃんは自己犠牲と奉仕の精神を叩き込まれている。

 困っている人を見捨てることなんてできないだろう。


 暗殺者のわたしだったら、自分と仲間の身を最優先する。暗殺は命がけの仕事で、だからこそ、慎重にやらないと仕損じてしまう。

 わたしたちは何人もの人を殺すことを使命としていたから、あっさり死ぬわけにはいかないんだ。


 けど、お姉ちゃんは違う。本当に自分の命を賭けてでも、他人を救おうとするだろう。その騎士道精神をわたしは眩しく思ってしまう。

 森林の奥にいたのは、女性の冒険者たち数人。それとそれを取り囲む、魔族の群れだ。


 しかも……


不死属アンデッド……!」


 セレナがつぶやき、舌打ちをする。

 アンデッドはかつて人間だった存在に、エーテルが作用して魔族化した存在だ。魔族のなかでも、かなり強い。


 なんでこんな危険な魔族が、森林にいるんだろう?

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。


 問題は女性冒険者たちがピンチだということ。

 さっき悲鳴を上げた人なんだろう。女冒険者が、血を流して倒れている。他の女性たちも押され気味だ。


 このままだと彼女たちは全滅。当然、命はない。

 お姉ちゃんは息を呑み、杖を振り上げ……冷静になったようだった。


 お姉ちゃんはわたしを見る。


「リディア。ごめんなさい。勝手に飛び出して」


「いいよ。お姉ちゃんは間違ったことをしたわけじゃないもの」


 お姉ちゃんに慎重に行動してほしいと、少しだけ思うけれど。万一、お姉ちゃんが怪我をするようなことがあったら、命を失うようなことがあったら、わたしは耐えられない。

 それでも、まっすぐなところが、お姉ちゃんの良いところで、わたしの好きなところだ。

 お姉ちゃんがそのまま正道を歩けるようにするのが、わたしの務め。


 お姉ちゃんは言う。


「あの人たちを助けられるかしら?」


 わたしは敵の戦力を値踏みし、こちらの戦力を勘案する。

 正直、不安だ。なんとかなるような気はするけれど、アンデッド相手に実戦で戦ったことはない。

 だから、書物で得た知識と目の前の戦闘の様子でしか、相手の力を推し量れない。







面白い、続きが気になる、ヒロインが可愛い!と思っていただけましたら


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