セレナと美少女姉妹
私はセレナ・ラルスという。没落する男爵家の娘に生まれて、お父様も早くに亡くなってしまった。
だから、私は名ばかりの貴族の令嬢で、いつも貧乏をしていた。
そんな私には多くの選択肢は与えられていなかった。
貴族らしい生活を送るためにはお金が必要だった。貴族であり続けるためには、王立学園で教育を受けることが必須だけど、それすらできそうになかった。
だから、私はフィロソフォス公爵家を頼った。
もともと私のラルス男爵家は、公爵家の分家だった。遠い昔に分かれた家で、格はずっと下だけど。
私は公爵家を訪れて、そこで公爵家の当主様からある提案を受けた。
王立学園の学費も家族の生活費も面倒を見る。代わりに汚れ仕事をやってもらう、と。
そうして、幼い少女だった私は、暗殺者になった。断る選択肢はなかったし、そんなことを考えることもできない年齢だった。
初めて人を殺したときのことを、私は覚えている。それはとても恐ろしくて、辛いことだった。
相手も死ぬし、私も死ぬかもしれない。そんな命のやり取りをするのは10歳そこそこの少女にとってはあまりにも過酷だった。
だけど……。
私には暗殺者の先輩がいた。それがリディア先輩だ。
公爵家の庶子だったリディア先輩は、その魔法の才能を買われ、暗殺者になったという。
私とほとんど年齢も変わらないのに、リディア先輩は冷静に淡々と敵を殺していった。その目はいつも凍りつくようで、私はリディア先輩のことが怖かった。
でも、リディア先輩は私に優しかった。困ったことがあれば手助けをしてくれたし、危ないときは守ってくれた。
そんなリディア先輩に、私は憧れ、惹かれていった。
リディア先輩の意外な一面を知ったのはそれからしばらく経ってからだった。
「わたしのいちばん大事なものはね、ソフィアお姉ちゃんなの」
リディア先輩はそう言って、黒い宝石のような目をきらきらと輝かせた。その表情は、普段にはない温かさがあって、私はどきりとする。
「ソフィア様、ですか?」
ソフィア・フィロソフォスは、公爵家の長女だ。リディア先輩と違って、正室の子供だし、ずっと恵まれた環境で育ってきた。
普通なら嫉妬してもおかしくないと思う。
でも、リディア先輩は……ソフィア様のことが大好きなようだった。
私は……そんなソフィア様に嫉妬した。私のほうがずっとリディア先輩と一緒にいて、リディア先輩のことを知っているのに。
暗殺者でいるかぎり、私とリディア先輩は一緒にいられた。
でも、公爵家が没落して……リディア先輩はソフィア様と一緒に追放され、私は公爵家にいられなくなった。
もう暗殺の必要なんて、公爵家にはなかったから。
そして、私はかつて殺した人たちから命を狙われることになり、辺境の港町リトリアへと逃げた。
これまで、私が必死で暗殺者を続け、王立学園にしがみついていたのは、何のためだったんだろう? 私は、結局、貴族でいられなくなった。
絶望する私が、リディア先輩とソフィア様に出会えたのは運命だったと思う。
リディア先輩は私のことを信用しきれていないようで、ちょっとショックだったけれど、仲間にしてくれた。
しかも、私が襲われそうになったら、命がけで守ってくれた。
私は決めた。
これからも、私はリディア先輩のそばにいよう。ソフィア様がリディア先輩の隣にいるのは少しヤキモチを焼いてしまうけど、ソフィア様も高貴で魅力的な女の子だった。
「リディア先輩のことも、ソフィア様のことも大好きです!」
私がそう言うと、美少女姉妹は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑ってくれる。
こんな二人と一緒にいられるなら、私がこれまでしてきたことも無駄じゃなかったのかもしれない。
そんなふうに、私には思えた。
<あとがき>
幕間でした!
面白い! セレナたちが可愛い! これからも期待! と思っていただけましたら
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