Ⅸ セレナが恐れるもの
わたしはどきどきしながらお姉ちゃんを待った。
セレナに焚き付けられて、お姉ちゃんがわたしをハグしてくれるみたい。セレナに内心で「よくやってくれました」と感謝する。
でも、お姉ちゃんは動かなかった。
お姉ちゃんは顔を赤くして言う。
「や、やっぱり……恥ずかしいの」
「えー、残念。お姉ちゃんって照れ屋さんだよね」
「わ、私たち、これから一緒に暮らすんだもの。いつでもできるでしょ?」
お姉ちゃんはそう言って、うつむいてしまう。
でも……お姉ちゃんとわたしのどちらかに万一のことがあれば、永遠にハグもできなくなる。
わたしは首を横に振った。
そんな不吉なことを考えるのはやめよう。
わたしたちは最強姉妹で、わたしがお姉ちゃんを守り、お姉ちゃんがわたしを助けてくれるんだから、きっと大丈夫。
お姉ちゃんが恥ずかしさも忘れるほど、わたしを溺愛してくれるように頑張らないとね!
まずは、セレナが問題だ。
セレナはくすくす笑う。
「ソフィア様がそんなふうだと、リディア先輩を私がとっていっちゃいますよ?」
「そ、それはダメ!」
「あっ、じゃあ逆にソフィア様を私のものにしてしまいましょうか」
わたしはじろりとセレナを睨んだ。
「お姉ちゃんになにかしたら許さないんだからね?」
「怖い先輩も素敵です♪ ……じょ、冗談ですよ?」
セレナは慌てて付け足す。
本題を忘れていたけれど、セレナがわたしたちの仲間になってくれるって言ってたんだっけ。
セレナの考えが読めないから少し不安だけれど、少なくとも敵になることはなさそうだし。
断る理由はないと思う。
わたしはちらりとお姉ちゃんを見ると、お姉ちゃんは肩をすくめた。
「リディアがそれで少しでも安全になるなら、仲間にするべきだと思うわ」
「……ありがとう、お姉ちゃん」
セレナを仲間にするのが、合理的な選択だ。
「わたしたちと一緒に冒険してくれる、セレナ?」
「はい、よろこんで!」
セレナはとっても嬉しそうな表情を浮かべた。
そんな顔をされると、わたしはちょっと後ろめたくなる。わたしは、セレナが裏切り者であることを疑い、いざとなったら殺そうと思っていた。
セレナはそっとわたしの耳元に唇を近づけ、ささやく。
「リディア先輩に信頼していただけるように頑張りますから」
「……っ!」
心の中を読まれたようで、わたしは身がすくむ。
セレナはくすっと笑った。
「大丈夫。私はリディア先輩の敵にはなりませんよ、絶対に。私は命の限りを尽くしてお二人をお守りします。だから……私のことも守ってください」
セレナの青い瞳に、一瞬、怯えたような色が浮かんだ。
そして、セレナが何に怯えていたか、すぐにわたしたちは知ることになる。





