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3.徹夜明けの朝

静かな部屋に鉛筆の音が響く。これまで数学、英語、化学の問題集を解き終えた。今やっている物理の問題集ももうすぐ解き終えるだろう。これで父さんの言いつけ通り全ての問題集を解いた事になる。

あともう少しだと意気込んだ直後、


ピーピー、ピーピー、ピーピー


と目覚まし時計の音が鳴った。


時計を見ると時刻は6:10を指していた。

僕は深く息を吸い、そのまま溜息とともに吐き出した。時計に意識を向けてしまったがために、保ってきた集中力が途切れてしまった。

人間の集中力は大体30分ほどが限界だと言われている。僕は勉強を集中する事に慣れているため、少なくとも50分は保てる。

小休憩を挟みながらなら夜通しでも勉強をすることが可能だ。しかし・・・


(やっぱり少しは寝ておいた方がよかったかな)


がむしゃらに机に向かってしまったため、頭の中にちゃんと落とし込めているかとても不安である。いくら10代とはいえやはり睡眠をとらないのは無茶だったと今更ながら後悔した。


急激に重くなってくる瞼を擦りながら制服に着替えるのだった。



居間に降りてくると、既に父さんと母さんが食事をとっていた。


「おはようございます」


そう声をかけてたがすぐに物凄い目で父さんに睨みつけられてしまった。

突然過ぎる事で思わず「えっ?」と間抜けな声を出してしまった。何をやらかしたのか全く心当たりがない。困惑している僕を見て母さんは溜息をついた。それはまるで失望と呆れが混じっているように聞こえ、心臓が止まるかと思った。


母さんが黙って指を指す。その方向に振り返ると、テレビの中でアナウンサーがニュースを読み上げている所だった。

あぁ、なるほど。どうやら父さんは僕が声をかけてしまったがために、ニュースがよく聞こえなかったようだ。徹夜明けとはいえ、テレビの音に気が付かないとは自分が情けなくなる。


フンッと鼻を鳴らすと父さんはバターがたっぷり乗ったトーストを齧った。母さんは黙々と食事の用意を続けている。匂いからしてステーキでも焼いているのだろうか。だがもちろん、その肉は僕の分ではなく父さんの分だ。

僕の分は既に食卓に用意されている。食パンのトーストが1枚にベーコンエッグと簡素な朝食だった。席に着くが僕はすぐに朝食を食べない。父さんからの『許可』が無ければ食べることが出来ないからだ。小さい頃からの習慣だ。だから小学校の給食の時はクラスメイトが一斉に食事を始めるのに驚いた。まるで養鶏場や牧場の家畜みたいに見えた気味悪さを今でも覚えている。


父さんが運ばれてきたステーキにナイフを入れ、次々と口に運んだ。実に美味しそうに食べるものだ。見ているだけでヨダレがこぼれそうになる。父さん曰くステーキは一家の主だからこそ食べるのを許されている料理らしい。


ニュースを見ながらなので、父さんは食べるスピードが遅い。僕は今か今かと腹の虫を押さえつけながら待つ。

ステーキを平らげ、満足そうにコーヒーをすすると父さんは僕に向かって


「食べていいぞ」


と言ってくれた。


「ありがとうございます。いただきます。」


感謝を伝え、ようやく自分の食事にありつく事が出来た。皿の上にあるものを全て口の中に掻き込みたいが、それでは動物と変わらない行為だと理性で落ち着ける。

トーストとベーコンエッグだけなので直ぐに食べ終えてしまった。少し物足りなさを感じながら

「ごちそうさまでした。ありがとうございました。」

と感謝を言った。


「それではいってくる。」

「いってらっしゃいませ。」

「はい。いってらっしゃい父さん。」


いつも通り通勤する父さんを玄関で見送ったあと、僕も登校の支度をする。


「ではいってきます。」


僕も同じように玄関から母さんに向かって声をかける。しかし、いつも通り返事はない。返事がないのは当たり前。僕がまだ未熟だからだ。返事を貰えるのはきっと立派になったら貰えるだろう。


単語帳をめくりながらテクテク歩く。僕のいつもの登校の姿。


こんな幸せな毎日が続けばいいのにな

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