1.僕の日常
「それじゃあ、先日行った英語の小テストを返却して今日のホームルームを終わるぞ。受けとった人から帰ってよし。」
クラス中からえ〜!と嫌がる声が飛び交った。小テストを抜き打ちで行われたことへの反感だろう。
そんな声などお構い無しに教師は次々と小テストを返却していった。
「え〜次は如月。」
「・・・はい。」
返却された小テストの点数は97点。満点ではなかったがクラス1位の成績を維持することは出来た。これでまた親に怒られなくて済む。自分の平穏が守られた事にホッと胸を撫で下ろした。
「充ー!!!」
休み時間に入った瞬間に、背中にドンッと強い衝撃を受けた。この五月蝿い声と勢い・・・アイツか。
「どうしたんだ宮橋くん・・・。」
「え〜、俺のことは康太でいいって何度も言ってんじゃん!」
名前で呼ばないと何度も言っているのにコレである。
彼は宮橋 康太。僕の親友を自称する変わり者だ。基本的に、1人で騒いで1通り満足したら去っていく。まるで台風のような奴だ。1人で過ごすのが好きな僕にとって鬱陶しいことこの上ない。
「なぁなぁ!さっきの小テスト何点だった??」
答えるのも面倒くさい僕は自分の答案を差し出した。
「うぇ!?俺なんて34点だったのに!?お前すごいな!」
たかが小テスト1つでこんなに騒ぐなんて・・・
うんざりしている僕の表情を見て察したのか、康太は話題を変え始めた。
「そういやさ、充って学校以外じゃ何やっているんだ?」
「特には何もしてないよ」
「うっそだ〜!漫画くらいは読んでんだろ?」
本当にそういうものを読んだことがなかった。
両親からは『あぁいうのがあるから世の中に犯罪者が増えているんだ』『あんなモノを読む人間の気が知れん』『お前は間違ってもあんな低俗なものに触れるんじゃないぞ』と幼少の頃から言い聞かされていた。
読むことを許されたのは親が目を通して許可を得られた本だけ。テレビはニュースのみ。しかし両親のお眼鏡にかなわなければ、新聞の記事は黒く塗りつぶされテレビの電源はすぐに消されていた。
それが僕の日常。いつも通りの生活。でも何故だろうか?最近は息苦しさが酷くなってきた。
「・・・マジでねぇのか」
僕は沈黙で答えた。
「そか!んじゃ、また明日な!」
どう受けとったのかわからないが、康太はニヒッと笑うとすぐに走り去って行った。
もう面倒事はゴメンだ。
見れば、康太は合流した友人達とバカ騒ぎをしながら下駄箱に向かっている。
その様子を見て『類は友を呼ぶ』と言葉が頭に浮かんだ。気のあった者や似通った者は自然と集まりやすい。要するにバカはバカを呼ぶということ。
現に康太のもとに数人が集まり、僕は1人きり。
つまりそういうことだ。
あまりにくだらない事を考えてしまい、自分でも少し笑ってしまいそうになる。
さて、帰ろう。手早く身支度を済ませ帰路に着く。早くこの空間から抜け出したい。ここも家とは違った意味でとても息苦しい。
この息苦しさが何なのか、僕はまた有耶無耶にしていた。