3話。私の知る話とは違う。ーーだからと言って無理やりフラグを立てるな!・1
おかしい。変。オカシイ。
いや、兎に角こんなこと有り得ないのは確かだ。現状確認からしよう。
現在、私は自力であのクソオヤジと悲劇のヒロイン母から籍を抜いてもらい、平民として他人を玩具にすることで退屈を凌ぐお嬢様、こと公爵令嬢様の侍女になった。……なんやかんやあってお嬢様の専属侍女になるには貴族籍が必要だとかで、男爵家の養女という身分付き。
……いや、この時点で正直オカシイのは分かっているがその現実から敢えて目を逸らして先へ進もう。
そんなわけで私はお嬢様の専属侍女として、学園に居る。とはいえ基本的にはお嬢様が学園でお勉強している頃は、同じように仕える主人を待つ侍従や侍女と交流したりお嬢様が欲しい物を買っておいたり美味しいお菓子を買って来たり……と変わらぬ侍女仕事をしているので、キャッキャウフフな令嬢としての学園生活など皆無。
……うん、ここまでは合ってる。
記憶を振り絞っても問題ない。
……良かった。記憶喪失になってたとかじゃなくて。
……っていやいやいや、そうじゃない!
じゃあなんでここに学園の入学出来る年齢に達していないアンネリカとハレンズが居るんだよっ! オカシイだろう!
どうやって貴族が通う、それも公爵家とか侯爵家とかが通う由緒正しい警備体制バッチリな学園室のカフェテリアに、この二人がニコニコと現れるんだよっ!
誰だよっ、こんな正式な手続きを踏んでも家族じゃないと学園内に入れないってルール無視でこの二人をカフェテリアに通したバカはっ!
ーーいや、ハイ。
そんなの誰って聞かなくても知ってる。
現在多額の寄附を学園に行った公爵令嬢サマがこの学園に在籍中ですもんね!
私は面白そうな目で二人を見るお嬢様をチラリと見る。
現状、アンネリカとハレンズの二人と私が同席して向かい合って座っていて、お嬢様は隣の席から私の様子を見ている。……あーっ! 絶対楽しんでるよ、コレっ。
どうせ私は専属侍女という名のお嬢様の玩具ですよ。
けど、無理やりフラグを立てる必要もネェだろ、お嬢様!
なんでこの二人を学園に入れたんですかね、そうですか、アレですか。この二人を呼び寄せて私の知る前世の記憶と同じことをしたいんですか、分かります。
……ってぇ、やらないからっ!
お嬢様が抑々アンネリカとハレンズを玩具にする気が無いのに、私がアンネリカに何かするわけないでしょっ。
私の役割は“ちゃっかり令嬢”ですよ! お嬢様が玩具にした二人に便乗するようなそんな人間! 自分からあからさまに何かを仕出かす気はないですからね!
「お姉様」
取り敢えず、ずっと無言で固まっている私に不安を感じたのかアンネリカがオズオズと声をかけて来たので、安心させるようにニコリと笑って見せた。
「久しぶりね、アンネリカ、ハレンズ。どうして学園に居るのか驚いて声も出せなかったわ」
アンネリカはホッとしたように笑い、ハレンズはそんなアンネリカを大切そうに目元を優しく和らげて見つめる。……ふむ、二人の関係は悪くなさそうね。
まぁそれはそれでいいんだけど。
「何か私に用事があったの?」
私の問いかけに、私に会えて嬉しいと笑っていたアンネリカの顔が曇る。……えっ、当たり前のことを尋ねただけでそんな顔をしないでよ! ちょっとハレンズ、私は悪くないからね⁉︎ 私に殺気を向けないでよ! と思ったけれど、殺気どころか、ハレンズまで顔を曇らせた。……いやいやいや、何よ、その雰囲気!
なに?
なんなの⁉︎ どうしたっていうわけ⁉︎
お読み頂きまして、ありがとうございました。
だいぶ遅くなっての更新ですみません。次回は今月末か来月中の予定。