2話。始まった学園生活。ーー此処は現実の世界・3
取り敢えず声をかけてみたら知り合いが入学していないと言った。知り合い、ねぇ……。ちょっと話したら伯爵令嬢らしい。お付きの侍女が居たけれど、この子完全に前世の記憶に引っ張られて現実が見えてない。こういう人って厄介なんだよなぁ。だって、この国、女王陛下が統治しているけど。陛下は二十代の独身なんだよね。だから私が言うのもあれだけど、ちゃっかり令嬢のマルティナ……つまり私が学園の生徒として過ごしてたマンガの世界そのものじゃないんだよねぇ。あのマンガだとこの国は男性が国王を務めてた。そんで第一王子が学園に通ってた。第一王子の名前がサンドルトなんだよね。
この子、そのマンガの世界に引っ張られてて。違うってことに気づいてないみたい。こんな子が学園に通ってたらセレーネお嬢様が面白い物見つけたって喜ぶに決まってるじゃん。
私はセレーネお嬢様の性質を理解している。マンガ通り、人を玩具にして遊びたがる。ただマンガと違うのは邪悪さが無いこと。弄ぶ人間を見極めるのもそうだけど、どんな人が失態を犯そうと破滅しようと関係ない、というマンガのセレーネに対して現実のセレーネお嬢様は、人が失態を犯すことは兎も角、破滅を見たい相手をきちんと選ぶ。セレーネお嬢様が破滅を見たい相手はセレーネお嬢様自身と大切に思う人達を蔑ろにしたとか、侮辱したとか、そういった相手。若しくは女王陛下が憂うような事をやらかした相手。そのどちらでもない普通の関係の人は、対象にしない。
これって随分と原作と違うと言っていいと思う。
まぁ元々の性質として面白いか面白くないか、で人を判断するところがあるから、ついつい人で遊びたがるけど。だからこの子を見て興味を持ったら遊びたがるだろうとは思う。その前にこの子の思い込みを指摘したいところだから、この子付きの侍女にお嬢様の名前を出して、お嬢様に知られないうちに伯爵家へ帰るように促したわけだけど。
悲しいかな。お嬢様の方が先だった。
で。
案の定、この伯爵令嬢さん、お嬢様に怯えた目を向けている。あーあ、そんな顔をしていたらお嬢様が面白いモノを見つけたって喜ぶじゃない。仕方ない。さっさとこの子に帰ってもらえるようにお嬢様を引き受けよう。ってことで、お嬢様の興味をこの子から引き剥がしたまでは良かったんだけどね。また余計なことを言い出してたからこの子付きの侍女が咄嗟に口を塞いで馬車に連行して、そのまま出立した。
あの子の親はマトモだったのだろう。結局、あの伯爵令嬢は、半年も休学していた。そうだよねぇ。無知を晒したようなもんだもんね。徹底的に覚え込ませるためには仕方なかったよね。
尚、セレーネお嬢様にあの子について根掘り葉掘り尋ねられ、仕方なくセレーネお嬢様の好奇心を満たすために推測したこと(多分前世持ちということ)を明かしたのは、お嬢様の尋問に耐えるのが面倒くさくなったわけではない、と言っておく。面倒だと思ったわけじゃなくて、納得しないといつまでも尋問されるから、予定が詰まっているお嬢様の予定を変更させないためだ。
兎に角始まった学園生活(侍女生活)。平穏に過ごしたいと願ってやまない。此処は現実世界。平穏で平凡が一番!
お読み頂きまして、ありがとうございました。
次話からアンネリカとハレンズが再登場の予定です。(大まかな流れでは登場予定ですが一文字も書いてないのでもしかしたら次話ではなくその先になるかもしれません)