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1話。前世を思い出しました。ーー良かったのか悪かったのか。・3

 そもそも前世で友人達と笑っていた“ちゃっかり令嬢”というのは、マルティナが子爵令嬢で有りながら、虎の威を借る狐よろしく、公爵令嬢である主役のチートな悪役令嬢の取り巻きとして、公爵令嬢の名を巧みに使いながら、自分の顔の傷を嘲る奴らを虐めてきたからだ。


 そんでもって、主役の公爵令嬢ちゃんは、自分が隠れ蓑にされている事に気づかなかったので、ちゃっかり令嬢こと、マルティナに汚名を着せられて“悪役令嬢”になってしまうのである。そして、マルティナはちゃっかりと自分が行ってきた虐めを公爵令嬢ちゃんに押し付けるから、“ちゃっかり令嬢”と私や友人達は嘲りを込めて渾名を付けていた。


 それが何故、どうしてこうなった⁉︎


 というわけだが。何故かちゃっかり令嬢に自分は転生している。ホント何でだろ。物語だよ? 紙媒体だよ? 2次元だよ? 転生するにしても3次元じゃないところが本当に意味分からない。とはいえ、転生しちゃったものは仕方ない。


 父親に暴力を振るわれ、蔑まれる生活を送ってきたせいで。また(原作では)母親から憐まれて変に甘やかされてきたせいで。マルティナはとても性格が歪んで、上(年上・身分が上・勉強が上など)の人には媚び諂い、下(年下・身分が下・学力が下など)の人を蔑むどうしようもない子に成長した。


 舞台になる年齢は学園に入ってからの事だから、あと、5年は先。15歳になったらどんなに下位でも貴族の令息・令嬢は学園に通わなくてはならない。

 そうして通い出した学園で、ちゃっかり令嬢ことマルティナ……つまり私が、公爵令嬢ちゃんに後始末と悪名を押し付けながら、やらかすわけで。


 最終回までは読んでないけど。

 でも公爵令嬢ちゃんは、悪役の名を押し付けられながらも、出来る子。きっとマルティナのやらかしに気づいてマルティナは、公爵令嬢ちゃんに断罪されちゃうだろう。だって公爵令嬢ちゃん、頭良いわけだし。いくら最初は気付かなくても、そのうち自分が貶められていることには気付くよね。


 そうなれば、最悪な女・マルティナのことを許すわけがない。だって子爵令嬢が公爵令嬢を貶めたんだもん。報復は凄まじいことになるだろう。……うん。そもそも公爵令嬢ちゃんは人を玩具にするのが好きなご令嬢さんだ。報復するとしたら、絶対に、ちゃっかり令嬢ことマルティナ=私を、新しい玩具として色々考えると思われる。

 考えてみたらマルティナって、物凄くヤバい立ち位置じゃない?

 なんでマルティナ(原作)ってば、彼女を隠れ蓑なんかに出来るって考えたんだろ?


 まぁ3歳で前世を思い出し、ゆっくりとこの世界……ラノベ世界のこととか考えてみて。一応本を読む事でなんとか知識を蓄えつつ、今後のことを考えた結果。

 マルティナは父に疎まれ蔑まれ、母に無視されている子爵令嬢。

 跡取りは確か……ん?

 アレ? もしや、今日って、あの日じゃないの⁉︎

 色々と考えていたマルティナの所へ私の数少ない味方である専属侍女が、現れた。


「お嬢様。あの、旦那様がお呼びです」


「お父様が? 珍しい」


「それがその。……跡取りの件で、と」


 あー、やっぱりかぁ。やっぱり今日はその日でした。今日は、私、マルティナの10歳の誕生日。この日に父親は孤児の男女を連れて来る。あのラノベに書かれていた通りの展開。父親を愛する母親は、本日精神を病ませてしまう。あまりのんびり居間に向かうと取り返しのつかない事になりそうだから、さっさと向かう事にしよう、と私、マルティナは思った。


 急いで居間に到着すると、母親が嘆いていた。あ、ヤバい。


「あなた、この子達はなんなのですかっ。子を産めない私への当て付けですか!」


「失礼します。マルティナ、参りました」


 母親が父親を詰る言葉に被せるようにマルティナは入室する。母親は少し冷静になったのか、マルティナに視線を向けて黙った。


「うむ。座れ」


 母親がおとなしくなった瞬間を狙って、父親がソファーへマルティナと母親を促す。1人がけのソファーに座っている父親の隣に立っているのは、孤児の男女。年齢はマルティナと同じくらい。そしてマルティナは知っていた。ラノベを読んで知っているのとは別に、顔に傷を作った所為で父親から蔑まれ、母親から無視されている事に同情した執事からも聞かされていた。


「お父様、そちらの2人は孤児院から連れて来た子達ですね。バレース家の血を繋ぐために私と婚約させてその少年を跡取りに据える、と。そちらの少女は少年と仲良しだから一緒に連れて来たのでしたか」


「何故、それを」


「執事から聞いてます。ですが、お父様。そちらの少女はお父様の実子。私と半分血の繋がった妹ですわね。少年は孤児院の中で一番勉強の得意な子だから連れて来たはず。でしたら、私と婚約などさせず、仲良しの妹と婚約させるべきでしょう」


 淡々と父親にもましてや母親にも口は挟ませないで、今後を語る。父親は初めてマルティナをマトモに見たような顔付きになった。


(そりゃそうよね。蔑ろにしまくってた娘が自分の考え以上の話をしてきたんだもの。そこまで頭が回るなんて思ってもみなかったのでしょうよ。それに愛人の娘が居る事にも動揺すらしない私ですものね。子どもが暗に愛人の娘について知っているわよ、と言っているのだから驚くでしょう)


「どうして、お前は、アンネリカの事を知っている……」


 やや呆然とした口調の父親に、鼻で笑うマルティナ。チラリと母親に視線を向ければ、まるで知らなかったのか、顔色を青褪めさせて口を開閉させているだけ。多分、愛人がいた事すら初耳で言葉も無いのだろう。


「どうしても何も、詰めが甘いんですよ、オ・ト・ウ・サ、マ?」


 態とらしく言葉を切りつつ嘲笑ってやる。此処でようやく娘に虚仮にされている事に気付いたようで怒りに顔を真っ赤にさせていたが、怒鳴る前に続けてやった。


「貴方は本当に子爵なんですか。こんな程度で顔色を変えて。貴族なら何が有っても動じない・顔色を変えないのでしょう? 娘に虚仮にされた程度で怒るなんて貴族らしくもない。それから、アンネリカの件ですが、貴方、よりにもよって親戚である公爵家に出かけた先で、アンネリカの母親にあたるメイドを口説いて子を作ったのでしょう? 私、親戚である公爵令嬢様と手紙のやり取りをしている中で、その事を書かれて、貴女の父親は我が公爵家の顔に泥を塗ったのよ! とお叱りを頂きました」


「な、な、なっ」


 言葉が出て来ないのか、父親は顔色を今度は真っ青にする。マルティナの専属侍女に手紙の束を持って来てもらい、該当する手紙を見せれば、サアッと青から白へと父親は顔色を変えた。


 公爵家で雇われている使用人というのは、執事・侍従・侍女・メイド・騎士・下働き・庭師等、皆が貴族の出身(伯爵家・子爵家・男爵家・準男爵家・騎士爵)か、富裕層の平民の子である。

 “〇〇公爵家で働いていた”というのが一種のステータスで、その紹介状頼りに別の家へ働く事が出来たり結婚が出来たりする。父親がやらかしたのは、“公爵家の親戚”という立ち位置で準男爵家の三女に手を出したのだ。それも当時、17.8歳という年齢の結婚適齢期の女性に。これで子爵の妻として迎えられるならばまだ良かったが。


 当然ながら母親と結婚している父親が妻に出来るわけがない。愛人として何年か囲んで、その間にアンネリカが生まれたのだが、公爵家がそんな事を看過するわけがない。顔に泥を塗られたわけだから(公爵家の名前を出された以上はそういう事になる)、仕方なく公爵領のそれなりに有名な商人の後妻に父親の隙を突いて嫁に出し、アンネリカを孤児院へと入れた。


「つまり、公爵家は顔に泥を塗られた事をお怒りでして、故に元メイドをかなりご年配の商人の後妻に捻じ込んで、そのアンネリカを孤児院へ入れ込んだわけです。で、お父様がきちんと反省するならと思って、元メイド母娘の件は黙っていたというのに、私に傷がある事が不満で不満で仕方ないお父様が、顔は元メイドに似てとっても可愛いアンネリカを諦めずに探し回って孤児院から連れて来たわけですから、お父様は反省していない、と公爵家は判断するでしょうね」


 顔を真っ白にしたまま、最早何も言えない父親と、愛人を作られたショックで倒れ込みそうだったが、それどころの話じゃなくなって目が虚ろになりかけている母親の事を視界にいれながら、マルティナは更に続ける。


「もちろん、お父様はずっと監視されていたようですわ。それもこの手紙を読めばお分かりでしょうが」


 別の公爵令嬢様の手紙を差し出せば、父親は身体を震わせて読んでいる。


「あ、もし、この手紙を偽物だ、などと思うようなら、執事に聞いて下さいね。公爵令嬢様との手紙のやり取りは、我が家の執事と公爵家の従僕も介してますから」


 そろそろ、そんな愚かな事を口にするかもしれない、と先に釘を刺しておく。父親は正に口にしようと思った事で、居間の隅に佇んでいる執事に視線を向ければ、マルティナの言葉を支持するようにゆっくりと頷いて、父親は真実だと理解したらしい。


「我が家はめでたく公爵家に目を付けられました。つきましては、私は本日を以てバレース家から出て行きます。公爵家に目をつけられている子爵家など跡を継げませんから」


「なっ」


「ちなみに、私をこの家から出すことによって、バレース家の存続は許されますよ。どうせ顔に傷があることで、表にだせない……というか、表に出す気がない娘なんですから放逐しても問題無いでしょう。バレース家の血は、そこのアンネリカが引いています。そちらのアンネリカが親しくしているハレンズと婚約させれば跡取り問題は解決。お父様も表に出せる跡取り娘夫妻が出来たし、お母様も無関心でしかない娘よりも、自分のお腹を痛めたわけではないけれど、全く傷が無いバレース家の娘がやって来たので嬉しいでしょう。事あるごとに傷の無い娘とドレスや宝石選びを一緒にしたかった、と口にしていましたからね。どうぞ、新しい娘とそうして下さいませ」


 母親に視線を向けて嘲笑ってやる。愛人の娘を我が子として可愛がれ、と言っているマルティナに気付いたのだろう。絶望感を漂わせている。望み通り、顔に傷の無い娘なのだ、喜べば良い。


「私がこの家を出て公爵家で、アンネリカの母親の代わりにメイドとしてお仕えすれば、バレース家の存続は許されるそうです。顔に傷が有る恥ずかしい娘を捨てれば家が存続出来るなんてお父様にとってもお母様にとっても、いい事尽くめですね。まぁ社交界で、傷物の娘を捨てて愛人の傷の無い娘を跡取りに据えた冷血な子爵夫妻、と陰口を叩かれるくらいは耐えて頂きましょうか」


 父親と母親は、ようやく自分達が世間からどういう風に見られるのか理解したらしい。私が正妻の子でただ1人の跡取りであったにも関わらず、両親から蔑ろにされたり無視されたり、というのはもう貴族達の間で知られている。傷の有る娘だから、そのような態度を取っていた、と言っても限度があるのだ。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


おそらく次話で短編と同じ内容が終わる予定です。その次から続きになります。……多分。

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