4話。前世の記憶は役立ちません。ーー立ち位置を示すしかない・1
「何をやらかしたんですかね、あの男」
食堂から移動して個室のサロンに移る。学園内なので誰の耳に入るか分からないような話をする場合は、学園長室かこの個室サロンしか場所がなく、お嬢様が既に借りていたことから、どうやらお嬢様の予定通りに物事が進んでいるようだ、と判断する。
「簡単よ。ティナ。あなた自身のこと」
「私……?」
さすがにお嬢様の端的な言葉が理解出来ずに首を傾げた。あの男のやらかしが私に関係する、と?
「お父様も関わっているけれどね」
「公爵様が?」
益々理解不能。
「あなたの存在を知っている人が居るということ」
と、お嬢様が言っても全く理解出来なくて首を傾げるだけ。
そんな頭の回転が鈍い私をクスクスと笑いながら眺めてくるお嬢様に、早々に降参する。
「お茶を淹れて頂戴な」
指示を受けて砂時計を使用しながらお茶を入れてお嬢様の側に控えると、お嬢様は香りを楽しんだ後に一口喉を潤してから紡いだ。
「ティナ自身が分かっていたじゃない。正妻であるあなたの母はあなたしか産んでいない。……のに、妹という存在が、それもあなたの一歳下という年齢の子が現れたことを、訝る者が居るということよ」
それか!
あー……。一応私が生まれた時に届出はされている。それも正妻の母の子である私なのに、その私が家から除籍されている。不思議に思う者が現れても仕方ないとは思っていたけど。
でもそういうアレコレを突かれないようにお嬢様の父である公爵様が……あれ?
「お嬢様。公爵様も関わっているって仰ってましたよね」
「そうね」
「それってなんでです?」
「いくつかの理由があるわ。一つ。抑々お父様はデルタ子爵を嫌っている」
「はぁ」
そうか。あの男、公爵様に嫌われていたのか。そりゃもうどうしようもない。
「元からデルタ子爵位を取り上げて誰かにデルタ子爵位を渡す心算があったのよ。バレース家の存続にも興味が無かったの」
「じゃあ平民に身分を移行させる予定だった、と」
「ええ」
「まぁあの男に子爵なんて無理だから良いとは思いますけど」
寧ろ領地のためになるのでは?
「だけど。ティナがねぇ。お父様とわたくしの気を引いてしまった」
「それ、私が何も動かなければ早々にバレース家は無くなっていた、と?」
確認を取るとお嬢様がコクリと頷く。
うわぁ。やらかしたわ……。おとなしくしておけば良かった。でもなぁ、おとなしくしていても追い出されていたのは確実だしなぁ。
「ティナが動かないことを選んでいても、デルタ子爵はやらかしたでしょうよ。あなたを追い出してあの異母妹を跡取りに、と画策した。違う?」
「違いませんね」
前世の記憶が戻っても戻らなくても、私は確実に追い出されていたはず。だって、あの家では自分が一番だ、と偉そうにしていた男だもの。
「そうでしょう? さすがにお父様もあの庶子のことは把握していなかったのだけど。いえ、存在は知っていたわよ? ただ、あなたに代わりあの子を跡取りにする、なんて考えをするとは思ってもいなかったってこと。法で決まっているのにそんな強硬手段を取るなんて、いくらデルタ子爵でもやらないと思っていたのよ」
……あー
それってつまり、その強硬手段を取った父という存在のあの男は、公爵様も呆れる程のお花畑思考の持ち主ということでは……?
えっ、ホントになんで私、アレと血が繋がっているのかな……。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
ゴールデンウィーク中のストック?
さて、何のことでしょう?
次話は来月の予定です。