3話。私の知る話とは違う。ーーだからと言って無理やりフラグを立てるな!・4
「で、では、お姉様、あの、良いんですか?」
アンネリカが寝込む母を放置していいのか、と不安そうに見る。
いや、まぁ寝込んでいる、と聞かされれば少しくらいは気になるのは気になるけれど。
……隣で澄ました顔をして私がどんな対応を取るのかワクワクしているだろうお嬢様のことをチラリと見ても、やっぱり澄ました顔のまま。
そして目の前にいるアンネリカは心配そうに私を見て、そんなアンネリカを励ますように、見守るハレンズのチラリとした睨み顔を見て、思いっきり溜め息を吐き出した。
「ハレンズ、もう一度言う。あなたが睨み付けるのは私じゃなく、あの子爵だから。序でに言えば、アンネリカが心配している私の母だけど、その寝込む要因も私が除籍されたことが切欠だとしても、大元はあの子爵が要因だから。そこを間違えないで欲しいんだけど」
賢いハレンズは、アンネリカのことになると視野が狭くなる。……別にあの子爵家がどうなろうと私は構わないけれど、それでもちょっとこの二人に投げてしまったのは不安が残る。
……いや、今更なんだけど。
私は逃げ出したわけだしね。
とはいえ、跡取り娘であるはずのアンネリカは人の裏の顔など存在しない、とでも思っているだろうというくらい純粋で人を信じ易い。悪く言えば単純である。それはそれで心配だけど。
その純粋さというか単純さを補う、そのためにマンガでは賢くて人の悪意に聡くて逆に人を……というか、まぁアンネリカに意地悪な私を罠に掛けるような立ち回りの上手いハレンズと婚約させたわけなんだけど。全然立ち回りが上手くないというか、賢いのは賢いけれど視野の狭い男になっているってどういうこと?
「それは、その分からないわけではない、ですが、アンネリカの父親ですし、アンネリカのことは大切にしていますし」
「まぁそうでしょうね。でも、だからこそ母は父から大切にされていないし、それは私も同じだったから、結果として私はあの家から除籍される道を選んだのだけど」
ハレンズは複雑そうな顔をする。
本当に視野の狭い男になってしまっていて、マンガの中では平民出身ながら一国の王子でもあるサンドルトと時に共闘し、時に反目して、アンネリカを守る王道なヒーローだったのに、現実では随分と隔たりが出たな……。
えっ、まさかコレも私がアンネリカに意地悪をしていないことの弊害? 子爵家を出たことの弊害、なんてことはないよね?
それともあれか? サンドルトが王子ではない、とかそういう現実の世界とマンガの話が違うから、マンガの性格とは元々違うとか?
だとしても、性格まで責任は負えないよね。
「でも、その、アンネリカを後継にしてくれているという点は感謝する事ですし」
うわっ……。ガチでアンネリカが安泰ならそれでいい、というアンネリカ至上主義の悪い見本になってるな……。
アンネリカ至上主義なのは構わないけど、あの子爵の手綱を握るくらいの男になれると思ったのに、全くその片鱗が見えない。それどころか、あの子爵を放置してアンネリカのやりたいようにやることを見守るのが自分の使命だ、とでも言うような面倒くさい考えに傾いてない?
私に、何かを言ってくる前に、ハレンズがあの子爵を牽制しとけば母が寝込んでも、私の前に顔を出すこともなく、何とか出来たはずなのに、そのことに全然気づいてない……。
ダメだ、コレ。
アンネリカにあの子爵をどうにかする事は出来ないだろうからハレンズと婚約させて牽制させておこうと思ったのに、アテが外れた。
とはいえ、このままにはしておけない。
……仕方ない。
「アンネリカ、ハレンズ。今日の所は一旦帰ってもらえますか。母宛に手紙を書きます。それを渡して下さい。あと、アンネリカとハレンズにも手紙を書きますから読んで下さいね」
アンネリカは途端に安心したような表情で目を潤ませているし、私から手紙がもらえるなんて、と喜んでいる。……まぁ確かにこの純粋さは大切にしたい、とハレンズが考えるのも分からなくはない。
でも、それだと貴族社会じゃ生きて行けないってことをハレンズが教えて欲しいものだね。
そのハレンズもアンネリカが喜んでいるからそれでいい、って顔だけど、アンタがそのままだと未来が危ないってことに気づけ?
お読み頂きまして、ありがとうございました。
次話も来月更新予定です。