3話。私の知る話とは違う。ーーだからと言って無理やりフラグを立てるな!・3
取り敢えず、マンガとは全く違う展開だな。
あのマンガでは、アンネリカの存在が明らかになり文句を言うと父に離婚を言い渡されても縋り付く母だった。ついでに父にアンネリカを可愛がるように言われるとマルティナ……つまり私とは違い傷も無ければ愛嬌もあるアンネリカが可愛くて仕方がなくて、私のことなど見向きもしなかった。
私がちゃっかり令嬢になるのは、この家庭環境が問題だ。実の親から見捨てられた……と感じた私がセレーネお嬢様の取り巻きになってセレーネお嬢様に便乗して異母妹のアンネリカに嫌がらせをする。それがマルティナという存在。
日本人の記憶を取り戻した私は悲劇のヒロインぶる母もどうしようもない父もさっさと見限ってセレーネお嬢様の侍女をやっていて、なんだかんだで楽しく生きているわけだけど。
まさか、実母が私恋しさに寝込むとか思わなかったし。離婚宣言されて受け入れるとも思わなかったし。それにマンガと違ってアンネリカとハレンズに頼られることになるとは……。
私の知ってる内容とは違うんだよな、本当に。
併しこの場合、一旦デルタ子爵家に赴く方がいいわけ?
「困ったな」
「お姉様?」
「アンネリカとハレンズに話した通り、私はデルタ子爵家と縁を切ったんだよね。バレース夫妻とは戸籍上は他人。血は繋がっていても。アンネリカとハレンズがどこまで勉強をしているのか知らないけど、血が繋がっているのに戸籍上他人という者の扱いは難しいんだよね。例えば婿入り若しくは嫁入りした場合は正当な理由だから実家との付き合いに制限はされないけれど、そうではないのに戸籍上が他人の場合は付き合いに制限が出る」
「それは……勉強しました。でもアンネリカの姉であるあなたは、義母上の実の娘ではないですか」
私の説明にハレンズがすかさず反応する。やはりマンガ通り賢いし勉強に順応出来たようだ。
「それはそうだけど。じゃあ何故私はバレース夫妻の長女だったはずなのに戸籍から除籍された? という話になるわけで。こんなことをアンネリカの前で言いたくないけど、抑々の原因は私とアンネリカの父であるデルタ子爵なんだよね。だって私が生まれていたのにアンネリカの母と恋仲になってアンネリカを産ませたから。貴族法では男女問わず正妻との間に子が居る場合、他の女との間に子を産ませてはならないのよ。産ませるのなら正妻……この場合、私の母に許可を得ていないといけないわけ。でも母はアンネリカの母のこともアンネリカのことも知らなかったわけだ。残酷なことをアンネリカに話しているかもしれないけど、アンネリカの存在は本当は不要なの。居てはいけない存在なの」
アンネリカはみるみるうちに目に涙を溜めていく。
マンガとは全く違う展開だけど、マンガ通りアンネリカに嫌がらせしているような状況になってしまった……。
ポタポタと涙が溢れ落ちていき、ハレンズがサッとハンカチを差し出す。
私を睨みつけてアンネリカを泣かせるな、と低い声で咎めるハレンズに、大きく溜め息をついた。
「あのね、ハレンズ。アンネリカが大切なのは分かる。だけど事実なの。戸籍上他人という関係になったことについて勉強をしたのなら、貴族法の勉強を始めたわけだよね? 愛人と庶子について、跡取り問題にも関わる大事なことだから勉強するはずだけど?」
ハレンズは、うっ……と声を詰まらせる。
私の指摘が理解出来たのだろう。
本来、アンネリカは生まれてきてはいけなかったし、子を作り産ませたのであれば、その時点で父は母に報告し、了承を得なくてはならなかった。
了承さえ取れていればアンネリカは生まれてきてはいけない存在ではなく、生まれてきても認められる存在ということなのだから。
それを怠った父が悪いのであって、それを教えた私を睨みつけるのはお門違いというもの。
「ハレンズが咎めるのは私ではなく父の方よ。だけど、父は私の存在を世間から隠していたの。顔に傷が出来た出来損ないの娘だからね。だからこそ、母に、アンネリカを無理やり認めさせた。そして母が認めたことから調子に乗った父がアンネリカを跡取りにしようと考えた。……分かる? 私の存在を消そうとしたのよ、あの男は。アンネリカを跡取りにするのであるなら、私の母……つまり正妻が産んだ正当な子とするか、愛人の子であるのなら母に子が居ないから母の養子とするか、私自身に問題があって跡取りに据えられないとするか。その三つしかない。母が産んだ子だと国に届け出ていないのだから最初の案は無い。私が生まれた時に国に届け出ているから母に子が出来なかったという言い逃れは出来ないから次の案も無い。ということは、アンネリカを跡取りにするのは、私に問題があるから、という理由でしかない。此処まで言えば、私が戸籍上他人であることの理由は分かるわよね」
アンネリカとハレンズに淡々と理由を説明する。
父が母に愛人とアンネリカの存在を隠していたことも問題だし、顔に傷が出来た私を疎んで跡取りをアンネリカに変更しようと画策したことも問題。
その結果が、私はバレース夫妻……つまりデルタ子爵家の嫡子という戸籍から除籍、というものになった。
その除籍問題を国から突かれないように、私の意思で除籍を受け入れたことにしたのに関わらず、気軽にデルタ子爵家へ足を向けられるわけがない。
除籍されるということは私に問題がある、ということを表すわけで、当人の意思が無いのに無理やり除籍をすることは禁じられている。私の同意なく除籍するのであれば、第三者が納得出来るくらいの客観的な証明をしなくてはならない。
そんな面倒なことを私は望んでいなかったから、除籍に同意したのだから。
「アンネリカの姉殿は、もしかして不要な争いをしないために除籍に同意を……?」
「というより面倒だったのよ。父の不機嫌顔を見続けるのも母の悲しそうな顔を見続けるのも嫌だし、調査に時間をかけられるのも嫌だったわけ。それなら除籍にさっさと同意した方がいい、と判断した。それだけよ」
ハレンズの発言を訂正する。不要な争いを避けるために身を引いたいい人、なんて思われるのは嫌である。そんな自己犠牲心は私には無い。
兎に角、そんな私がノコノコとデルタ子爵家に足を向けられるわけがない。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
次話は来月中には更新予定です。