模擬戦 サクラ 後編
少しの間、俺たちは動きを止めていた。
俺は、驚きから。
マリーは、どこか苦しそう、と言うよりは悔しそうな顔を浮かべているので、何らかの方法を思わずとってしまったという、少しの後悔からだろう。
その間に少し冷静になって思考を巡らせる。
マリーに直撃するかに見えた魔法がどこかに消えた。
その状況から一番に思いつくのは転移魔法だ。
空間魔法の一つに属する転移魔法。
それならどこかへと消えた魔法にも納得がいく。
納得は行くのだが……転移魔法はとても高度な魔法だ。
術式の構築もとても複雑で、あの短時間で構築できたとは思えない。
「もう一度試すか」
何が起こったのかは分からないが、もう一度同じことをしてみることにする。
もし、今のが転移魔法だとしても、それが何回も使えるとは思えない。
転移魔法ならば大量の魔力を必要とするはずだ。
「アイスランス、五十連」
「ロックウォール」
結果は先ほどと同様。
またしても俺の放った魔法はどこかへと消えた。
だが、今回はそうなることも予想してしっかりと観察していたのだが、詠唱をしていなかった。
「ロックウォール」の魔法の詠唱はもちろんしていた。
だが、その他に何かの魔法の詠唱はしていなかったように見える。
と言うことは、転移魔法ではないのか?
いや、無詠唱と言う可能性は……ないか。
スキルに<無詠唱>がない以上、その可能性はないだろう。
そうなると、ますます謎だ。
詠唱をしていなかったということは、転移魔法だけでなく、他の魔法の可能性もなくなる。
そうなるとスキルや称号が考えられるが、それらしきものはない。
いったい、こいつは何をしているんだ?
「まさか、ここまでとは思わなかったわ。
このままだと私が先に魔力切れで負ける。だから降参するわ」
どうしようと、対策を必死で考えていると、マリーがいきなり負けを認めた。
それを聞いてセレン先生もマリーに確認を取り、俺の勝ちで模擬戦を終わらせる。
「いいのか?」
「えぇ」
「そうか、それなら勝者サクラ」
「……」
何と言うか、釈然としない気持ちだ。
全くかった気もしない。
「ふ、ふざけるな!?」
それは皆も同じなのか場が少し沈黙に包まれた。
しかし、その空気の中、一人大声を上げるものが。
「こんなの、認められるか!?」
顔を真っ赤にしながら文句を言うのは、さっきカインに負けたタロウ。
タロウは先生に向かって怒鳴る様に抗議する。
「お前が認めなくても、マリーが負けを認めてるのだ」
怒りをあらわにするタロウに対し冷静に言葉を返す先生。
先生の言っていることはもちろん正論だ。何も間違ったことは言っていない。
だけど、俺も釈然としない気持ちはあるので少し、タロウの言いたいことは分かる。
まぁ、怒るようなことではないが。
「くそっ!マリー!お前、ふざけるなよ!?
あのクソ野郎をぼこぼこにしろよ!?」
俺はお前にクソ野郎とか言われる筋合いはないんだが。
滅茶苦茶なことを言っているタロウではあるが、何故かそんな奴の言葉に頷いてるやつが数人いる。
まぁ、俺のことを妬ましく思ってるやつらだろう。
「お前、分かってるんだろうな!?」
「……」
どうせタロウが何かを言おうとマリーには関係ないだろうと思っていたのだが、次のタロウの言葉で
黙ってしまうマリー。
気のせいか少し顔色も悪く見える。
「おい、何のことだ?」
何かを察した先生もタロウを問い詰めるように質問をする。
「うるさい!?だまれ!?」
しかし、タロウはよっぽど頭に血が上ってるのか先生に対しても怒りをぶつけ、横暴な態度で言葉をぶつける。
「覚えておけよ!?」
先生に対して怒鳴ったタロウはそんな捨て台詞と共に訓練場を出て行ってしまった。
何だあいつ?
「マリー何かあるのか?」
心配そうな表情でマリーに問いかける先生。
俺もあんな奴は放っておいてマリーのことが少し気になるので二人の会話に混ざる。
「後で、話します」
それだけ言って、その後は口を閉ざすマリー。
これは何か面倒なことがありそうだ。
少し変な空気にはなったが、皆どこかへ行ってしまったタロウのことは気にせず、俺たちのことを称賛してくれる。
「二人とも凄いな。
サクラのあの魔法もそうだが、それを防ぎきるマリーも驚いた。
まさかサクラだけじゃなくてマリーもここまで凄いとは……」
称賛の言葉をくれるカイン。
その言葉の中には少しの嫉妬のような感情も混ざっているようではあるが、俺たちは称賛してくれている気持ちは本物なので素直に受け取る。
カインのほかにも称賛の言葉をもらい、今回の合同授業はこれで終了となった。
それとマリーから二人きりで話したいこともあると誘われた。




