パン屋
「あ!お兄ちゃん、ここじゃない?」
アイリの指さした方を見る。
学園の帰り道、俺とアイリは最近美味しいと話題のパン屋にやって来ていた。
扉を開いて中に入る。
扉を開くとパンのいい香りがすぐに鼻に入ってきて、それだけで食欲をそそられる。
中を見渡してみると様々なパンが並べられている。
「いらっしゃいませ…‥あっ!アンタ!」
声をかけられた店員の方を向くと、そこに居たのはマリーだった。
こいつここでバイトしてるのか?
それにしても、いつもと違う格好を見ると新鮮でいいな。
こいつは美少女だからなおのこと。
「えっと…‥マリー、ちゃん、だっけ?
初めまして?アイリです」
アイリが首を傾げながら挨拶をする。
今日、教室で一応あっていると思うが、あの時はマリーがクッキーを強奪していっただけなので、初めましてなのだろう。
「あっ!初めまして…‥って!何しに来たのよ!」
アイリに挨拶を返した後、こっちに顔を向けて怒鳴ってくる。
何故俺に対してはそんなに当たりが強いのか。
「何しに来たって、パンを買いに来ただけだけど」
それ以外にあるだろうか。
ここはパン屋なのだから。
「そ、そう」
それだけ言い残すと奥に去って行ってしまった。
「なあ、アイリ。俺、あいつに嫌われるようなことしたか?」
「ん~。胸を見てるのはお兄ちゃんだけじゃないし…‥」
俺の質問に顎に手を置いて考えるアイリだが…‥。
俺はそんなに胸ばかり見てないぞ…‥多分。
会うたびに、一回胸元に視線が行っているくらいだ。
これくらいは男なら仕方がないだろ。。
「まあいいか」
マリーのことは置いておいてパンンに視線を移す。
「お兄ちゃん。これ見て!カレーパンだって!」
アイリの指さしたものを見る。
その先には丸くて揚げてあるパン、アイリの言った通りカレーパンがあった。
「おぉ。懐かしいな」
「あれ?お兄ちゃん、知ってるの?」
「あぁ。昔よく食べてからな」
昔と言うのは、日本に居た頃、前世の話だ。
こっちの世界でカレーパンは初めて見た。
こっちでカレーと言えば、カレーライス、もしくはナンが一般的だ。
「こっちにもあったんだな」
「美味しいの?」
アイリの質問に頷いて返す。
こっちの世界のカレーパンは知らないが、見た目も匂いも大体同じだし、美味しいはずだ。
棚を見て他にどんなパンがあるのか確かめる。
日本で見たようなパンが多く並んでいる。
中にはこちらでしか見たことのないものもあるが、多くは日本で見慣れたものばかりだ。
一つ気になる物に、オオカミサンド。というものがあった。
商品と一緒に置かれていた説明によれば、この王都の外でよく見るオオカミの魔物の肉を使ったサンドイッチらしい。
家でも何度か食べたことはあるが、サンドイッチで食べたことはない。
あんまり、パンに合うような肉ではなかったと思うが、ソースで合うように仕上げているということか?
一つだけ味見に買ってみよう。
それからも暫くアイリと二人で店内のパンを見て、数個手に取りカウンターに持っていく。
「…‥」
対応はマリーがしてくれた。
カウンターに置かれたパンの値段の計算をしているマリーを見る。
「お兄ちゃん、いくらマリーちゃんが可愛いからってずっと見てたら、また怒られるよ」
アイリが耳元で呟いてくる。
そしてその視線はマリーの胸に向いていた。
「別に見てないぞ」
小さい声で返す。
俺だってそこまで胸ばかり見ているわけではない。
「…‥はい」
値段を言いながら紙袋に入れてくれたパンを渡されたので、お金を渡して受け取る。
「…‥おりがとうございました」
頭を下げたマリーを背に俺たちも「ありがとう」と返してから店を出る。
「ねぇ、お兄ちゃん。マリーちゃん、なんかお兄ちゃんのことずっと見てなかった?」
「うん。多分」
何故か途中からずっと見られていた気がする。
アイリも言うなら自意識過剰ではないはずだ。
俺に向けられていた視線は、何か怪しんでいるような感じだった。
ずっと睨まれていたわけではない…‥はずだ。
それに途中、驚きの声が漏れ聞こえてきたような気がしたが、気のせいだろうか。
俺たちは少しマリーのことを疑問に抱きながら、買ったパンを手に家に帰った。




