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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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♦ 番外編 女子高生とトウカイテイオー

 りーちゃんは、お見舞いだといって渡してきたバナナを、自分で食べながら、食い入りようにテレビ画面を見つめている。


「馬券とかって買ってるの?」


 あたしがそう聞くと、りーちゃんは画面から目をはなさずに、口元だけにやりと微笑み、


「次に映る馬の単勝にぶちこんどいたよ」


 画面では、お馬さんが歩いている。よくわからないが、りーちゃんが言うには、レース前のお披露目見たいなもんらしい。

 一頭一頭、馬の状態みたいのを解説しているようだ。


「本調子にないだと。んなもん、関係あるかい!」


 りーちゃんは、そう言うと、あたしのほうに顔を向け、


「このトウカイテイオーって馬はな――」


 その熱く語る姿が、あたしたちの試合前に語ってくれる姿と重なって見える。

「俺が好きなものは何より競馬だ。だが、それ以上に大好きなのはお前らだ」

 そう言ってくれた姿が重なってくる。


「すげえ強い馬で無敵の強さを誇ったけど、怪我してどん底に叩きのめされたんだ。だけど、立ち上がってきた。それも何度も何度も這い上がってきたんだ。今回も体調を崩して1年ぶりのレースだ」


 りーちゃんの視線は画面に戻っている。


「確かに素人の俺が見ても本調子じゃないのはわかるよ。昔はもっと弾むように楽し気に歩いていたからな」


 りーちゃんの視線が再びあたしに向かってくる。


「だけど、俺はこいつを信じてる。そして、」


 続く言葉を飲み込んだりーちゃんの瞳が潤んでいく。

 自分の顔を叩くように目をぬぐったりーちゃんは座っていた椅子から立ち上がり、

「なんか、バナナがのどにつまっちまった。ちょっと、缶コーヒー買ってくるわ。橋谷、お前もなんか飲むか?」







「いいか、橋谷。騎手がかぶっている赤い帽子だ。あれだけを見とけ」


 何か音楽があり、その後は大歓声が上がっている。あたしの心もなんだか弾んできている。

 馬たちは引っ張られて、どこかに入っていく。そこからスタートするのだろう。赤い帽子もその中へと入っていく。




 馬が密集して走る中で、あたしは赤い帽子だけを目で追っていた。


 耳には実況するアナウンサーの声とともに、りーちゃんのつぶやき声も届いてくる。


「1年ぶりでこんな大きなレースを勝つなんてありえないんだ。そんなことができるなんて奇跡なんだ。ありえない奇跡なんだ」


 画面から歓声が聞こえ始めている。アナウンサーの声に力がおびていく。


 りーちゃんが椅子から立ち上がり、あたしも思わず身を乗り出している。


 大歓声。アナウンサーの「トウカイテイオー」という声。


 りーちゃんの声が重なる。「行け! テイオー」


 あたしも、「お願い! テイオー」


 そして、あたしも、りーちゃんも同じ言葉を、「テイオー! テイオー! テイオー!」


 赤い帽子がピンクの帽子をかわしていく。


 アナウンサーが叫ぶように、「トウカイテイオー! 奇跡の復活!」


 その声を耳に、あたしは、りーちゃんと顔を合わせていた。

 りーちゃんの目が潤んでいる。きっと、あたしも同じ。

 トウカイテイオーという馬が起こした奇跡に胸が震えている。それが涙となってあふれてくる。言葉とともに、


「りーちゃん。あたしも奇跡を起こせるかな。また、思いっきり走れるかな」


 りーちゃんは涙をぬぐうと、恐いほどの顔で、あたしを真っ直ぐと見つめ、「そんなもん当たり前だ!」


 そして、にっこりと微笑んだ。








 1年後、表彰台の一番高いところに立つ5人の選手たち。そして、そこには一緒に並ぶ男性の姿もある。

 彼は大粒の涙を流しながら、額に入った写真を天に向かってかざした。天に向かって顔を上げた選手たちの目からも涙がこぼれ落ちている。


 さらに時が流れ、大歓声の中を思いっきり走る姿がある。

 確かな奇跡がそこにある。




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