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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
93/98

アタシ ☆彡 揺らめく記憶

【ローズステークスGⅡ 阪神1800m(芝・右 外) 曇り:良馬場】




 ゲート後ろでぐるぐる回りながら(レース前の輪乗り)、何度見渡してもアイツはどこにもいない。


 アイツがでないと聞いて、こみ上げてきたのはただただ怒りだった。アイツのところに行って、「ふざけんな!」と怒鳴りつけてやりたかった。

 もうレースなんてどうでもいい。アイツがいないなら、走る意味なんてない。

 そのことだけで、頭がいっぱいになっていて、気付くとまなっちゃんを振り落としてしまっていた。


 短く響いた悲鳴に、無意識に動いた視線。目にしたのはうずくまる姿だった。

 血の気がひくように、頭から吹き出しそうだったものは消えていき、ごめんね、ごめんね、と繰り返しながら顔を寄せる自分がいた。


 あの時、まなっちゃんは係員に「大丈夫」と言って、すぐにアタシにまたがった。

 だけど……鞭を手にした時、一瞬顔をしかめたように見えた気がしたが……。






 ゲートに入ると、「ユッカ、がんばろうね」という声が聞こえ、首を撫でる感触が伝わってくる。


 そう、今はがんばるしかない。アイツのことなんか忘れてがんばるしか……。


 小さくうなずいてみせる。




 ガシャン!




 そんな音がし、目の前が開けると、前と飛び出した。


 次の瞬間、無意識のうちに周りへと視線を走らせる自分がいる。


 アイツは! アイツはどこ?


 アイツをさがしている。だって、アイツをマークして後方を追走し、直線で勝負するのが、みんなで立てた作戦だから。

 だけど、アイツは……いない。わかってる。わかってるけど……。


 あの目が浮かんでくる。悲し気にアタシを見つめたあの目、あの目が。


 なぜだか、胸の奥のほうが震えている。

 何かが浮かんでくる。もやがかかったようにぼんやりしていて、なんなのかわからない。

 遠い、遠い記憶なのかなんなのか。確かにアタシの中にある何か。



 アタシは……アタシはあの目を知っている。



 とその時、耳へと響き渡る声が「ユッカ!」


 まなっちゃんが声を張り上げている。さらに気づけば、首が激しく押されている。


 う、うそでしょ。えーっと、今ってどの辺りなの?


 のんびりそんなことを言っている場合じゃない。周りの騎手の手も激しく動いているし、鞭まで飛んでいる。


 これって、もう最後の直線じゃん!


 ぼけっとしている間に直線まできてしまっていた。

 馬群の大外にいるのだろうか。

 脚にはまだまだ余裕がある。これなら差せる。


 気持ちも視線も前に向かった瞬間、『まっ、マジか』


 遥か前に影が。

 馬群を突き放している2頭の馬の姿が。

 どんな展開でこうなったのか、知らぬ間に、こんなに離されてしまっている。


 バカ、バカ、バカ、アタシは何やってんだ!


「ユッカ!」


 再び響いた声。

 視界には振り上げた鞭が。

 左に持ちかえたのか、左の尻腰に鞭が飛んできた。


「ユッカ! お願い(反応して)」


 再び鞭が――飛んでくることはなく、小さな悲鳴が。


 何がなんだかわからないけど、まなっちゃんはぐいぐい首を押してきている。だが、鞭は飛んでこない。


 ふと、顔しかめていたまなっちゃんの姿が浮かんでくる。

 もしかしたら、あの時に手を痛めていたのかもしれない。それでも、必死に鞭を……。


 ごめん。アタシのせいで、ほんとごめん。


 こっから(前の馬に)届くだろうか。

 届くか届かないかじゃない。


 空を切るように手前をかえ、気合ともにハミを噛んだ。


 届かせる。絶対に!



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