◆ 衝撃の優駿牝馬(オークス)
一度、完結としましたが、再び連載することにしました。
また、お付き合いいただければと思います。
【優駿牝馬GⅠ 東京芝2400m 18頭立て 天候:曇り 馬場:良】
今年の注目はなんといっても桜花賞馬ルシュアジェシーノである。2冠への期待がオッズ1倍台という圧倒的な人気にもあらわれている。
余裕のあった勝ち方からも、この人気も当然といったところだろう。
パドックの外めを悠然と歩く姿は女王の風格さえ感じさせるものだった。
はなれた2番人気には、桜花賞で2着だったモンマリニーナ。
着差は2馬身だったが、着差以上に力差を感じさせるものではあった。それならばということで、差のない3番人気となったのは未知の魅力。
無敗の地方馬。その名はユッカ。
トライアルレースであるフローラステークスで見せた衝撃の末脚に、多くの期待と人気を集めている。
ファンファーレで大いに盛り上がった観客も今は、ゲートインする馬たちを静かに見つめている。
テレビやスマホ、パソコンを見つめている人々も、実況の声を耳に、スタートのその時を待っている。
『さあ、東京の直線で再びあの輝きを見せるのか。最後に18番ユッカが中向真夏を背に大外に導かれていきます』
そして、係り員がはなれると、ゲートが開かれた。
各馬が飛び出し、競馬場は大歓声に包まれている。
――向こう正面。
早いペースで馬群を引っ張るのはフローラステークスでも逃げた8番ゴリンダリンダ。スタートの出は3番ルシュアジェシーノが早かったが、何が何でもハナは譲らないと、出ムチを連打しハナを奪っていた。
一頭だけが抜け出し、他の17頭は差がなく固まっている。
ルシュアジェシーノはスタートはよかったが馬なりで控えたことで、馬群の中段に位置している。
当然、マークされる馬だけに、周りは馬でびっしり囲まれている。
2番人気の12番モンマリニーナは7、8番手の外めで、内側にルシュアジェシーノを見る絶好位置につけている。
そのモンマリニーナをマークするように、外めの後方に位置するのがユッカ。
末脚を輝かせるその瞬間を待っているように、今は淡々と追走している。
『大欅の向こうを先頭でゴリンダリンダ。さすがに後続も差をつめ、10馬身あった差がみるみる縮まっていきます』
大逃げにみえたゴリンダリンダだが、時計からは平均よりやや早い程度だった。となれば、後続は平均より遅いということになる。
3、4コーナーでゴリンダリンダが息をいれたことで、差がつまったのであって、後続が仕掛けたわけではない。
それだけに、どの馬も手応え十分で直線を迎えようとしていた。
馬群は固まったまま直線へ。
ルシュアジェシーノは馬群の内で、囲まれたまま動く動けない。
『馬群は固まって直線へ。さあ、何が抜け出してくるか。大外から青い帽子。ラジカ二カサカが抜けてくる』
3、4コーナーで息を潜めるように静かに押し上げていく馬の姿があった。
後方にいたラジカ二カサカは自慢の長距離砲で、忍び寄るようにじわじわと押し上げ、直線の入口では先行馬の外にとりつき、坂を前に一気に先頭に躍り出てきた。
モンマリニーナの騎手は、内で動けないルシュアジェシーノの姿に、敵は外だと、左へと鞭を持ちかえ、振り下ろす。
ハミをとったモンマリニーナが内の馬群を置き去りにし、外から抜け出したラジカ二カサカへと迫っていく。
ユッカはまだ動かない。輝けるその瞬間を待っている。
そして、残り300Ⅿ。
その末脚を最大限にいかせる距離となり、中向真夏のステッキがユッカの肩へ。
『大外にはユッカ。右鞭一発、夢へと向けて末脚が輝きを放つ!』
ハミをとり、馬群が沈みこむ。
周りを弾き飛ばすように馬群を割っていく。
輝きを放ったのはユッカではなく、ルシュアジェシーノだった。
唸るように前へ前へと伸びる口元からは「おどきなさい!」という女王の声が聞こえてくるようだ。
まさに他馬を黙らせるような走りで、馬群から抜け出すと、末脚を爆発させ、内から突き抜けてきた。
そして、外で馬体を併せて叩き合う2頭を眺め見るように離れた内から抜け出し、ゴールへ。
『ルシュアジェシーノ! これは強い! まさに誰もが認める女王がここに誕生しました。その名はルシュアジェシーノ。女王ルシュアジェシーノ!』
4馬身差の2着にはラジカ二カサカ。さらに首差でモンマリニーナがつづいた。
ユッカは……。
アタシはだーれ? アタシは……。




