番外編 ♦ スダマリちゃん・言葉を失う桜花賞
今日は『スダマリの酔いどれ競馬』という番組のロケで高知競馬場に来ている。
私が地方の競馬場や場外発売所を訪れ、ご当地の美味しものを肴にビールやお酒をいただくという、ゆる~い番組だ。
いや、自腹で馬券を買うという気合の入った真剣勝負の番組である。
今日も気合十分で、高知よさこいナイターに挑む。
簡単なリハーサルを終え、今はスタッフともども、大型モニターへと視線を向けている。
その画面にはJRAの桜花賞が映し出されている。ここでもJRAの馬券販売があるので、私たちも馬券を手に画面を見つめていた。
画面にはスタートを前に輪乗りする姿あり、白い帽子が映し出された。
1枠1番ルシュアジェシーノ
私が手にしている馬券にはその名が記されている。
ルシュアジェシーノは中央での復帰戦となった前走のチューリップ賞は5番人気という低評価だった。
東京2歳優駿牝馬を勝ってきたS1ホースであり、最優秀2歳牝馬にもかかわらずこの評価。所詮地方競馬での話ということなのだろう。しかも、地方移籍前の芝の新馬戦では5着という成績だった。となれば、これが妥当な評価なのかもしれない。
でも、私はあの東京2歳優駿牝馬を目の当たりにし、その強さに圧倒されていた。
だから、チューリップ賞では迷うことなく単勝を買っていた。
そして、彼女は芝もダートも関係なく、その強さを見せてくれた。
大外枠からスタートをきった彼女はややつまずき、後方からの競馬になったが、3、4コーナーで外を周りながらも押し上げていき、直線に向くときには先団にとりつき、直線の叩き合いで2馬身突き抜けていた。
ロスの多い競馬だっただけに、着差以上に強い内容の快勝だった。
それでも今回も1番人気ではなく2番人気。それもオッズが5倍台と2倍を切りそうな1番人気モンマリニーナとは差がある。
出戻りだから?
というより、モンマリニーナの実績が抜けているからだろう。
こちらも2歳牝馬のチャンピオンだが、ルシュアジェシーノとは違って、阪神ジュベナイルフィリーズを勝った芝のG1ホース。
しかも、ここまでの戦績は4戦4勝で、前走は桜花賞トライアルであるフィリーズレビューで先行策から余力十分に抜け出し快勝している。
まさに楽勝といえる内容だっただけに、この人気も当然なのかもしれない。
それでも、私は今日もルシュアジェシーノの単勝馬券を手に、目の前のモニター画面を見つめている。
旗が振られる中、ファンファーレの音と拍手が響き、馬たちがゲートへと導かれていく。ルシュアジェシーノが引かれていく姿も画面に映っている。
この枠でどんな競馬をするのか。1番枠が嫌われて人気を落としている一面もあるだろう。
包まれて後手にまわる可能性は高い。そうなると、前走のように外から押し上げていくことができない。
内からさばけるのか。
地方での競馬も、外から押し上げていく競馬で強さを見せていた。それだけに、多頭数の最内枠でどんな競馬をするのか、興味深い。そして、楽しみでもある。
係り員がゲートから離れ、そして――「うそ……」
ゲートが開き、私は白い帽子だけを目で追っていた。そして、思わずもれた声。
周りのスタッフからは、どよめきが聞こえている。
ルシュアジェシーノが……逃げている。
確かに、今日はいつになく好スタートだった。だからといって、騎手は行く気はないといった感じで仕掛けている感じはなかった。
それでも、流れるように加速しハナに立っている。
他に逃げると思われていた馬もいたが、加速の違いに無理追いは避けているといった感じだ。
単騎逃げという形にはなっているが、この阪神の1600Ⅿでしかも桜花賞という舞台で逃げきるのは難しい。
レースは淀みなく流れている。ペースは早いのか。直線を前にルシュアジェシーノを追いかける騎手たちの手が激しく動いている。
それでも並びかけられる馬はいない。
直線で後ろを突き放す。だが、一頭だけ脚色の違う馬が。
ピンクの帽子、やはりモンマリニーナが馬群から抜け出し迫ってきている。
残り1ハロン半、差は3馬身。モンマリニーナの鞍上のステッキが激しく飛んでいる。
それに応え、モンマリニーナがさらに加速し、後続との差が開いていく。そして、前へと迫る。
2馬身。
だが――それ以上、前との差が縮まることはなかった。
ルシュアジェシーノの鞍上は手綱を押しながらも、横を気にするように何度か首を向けていた。
その姿は余裕さえ感じられた。
もっと迫られたら、もう一段ギヤを上げるかといった感じで、彼は馬の首の動きに合わせて手綱を動かしている感じだった。
強い……さらに強くなってる。
それは本物の女王を見た瞬間だった。
「ユッカ……」
思わず、つぶやき声がもれている自分がいた。




