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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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信一 ♠ これぞ小林牧場自慢の桜です

小林牧場自慢の桜が今年も咲き誇っている。入口から約700Ⅿつづく桜並木は圧巻である。


 大井で厩務員をしていた時から話に聞いたことはあったが、実際に目にすると、その迫力に息を飲み、心が弾んでくる。


 そして、賑やかな声が聞こえてくる今日は桜まつり。より一層俺の心も声も軽やかだ。「いらっしゃませ」

梳くった

「1つ、お願いします」


 俺の声の後に、小さな男の子の手を引く女性の声がつづいた。


「ありがとうございます」


 笑顔で言葉を返し、紙のおわん型ケースを手に取った。そして、目の前の鉄板から焼きそばをそこへと取り入れる。

 気付けば、山となっていた焼きそばも残り少なくなっている。


 俺は「 はいよ」という声とともにおわんを横に立つまなっちゃんへと渡した。

 微笑んで受け取った彼女が寸胴からオタマで救い上げた物をかけ入れる。


 食欲をそそる香りが鼻へと届いてくる。

 竹川厩舎、いや、4月になって新生・小野山厩舎となったが、自慢のカレーあんかけ焼きそばである。


 ひとり暮らしの時から、ソース焼きそばにカレーをかけて食べていたが、それを夕食で先生にだしてみると好評で、時々作っていた。

 そうそう、先日の竹川先生の引退にともなうお疲れさん会&新厩舎開設のお祝い会の時も、祭りの試食ということで俺が作ったのをだしたのだが、なかなか評判がよかった。


 今回のカレーは、ヤマさんの奥さんである奈津さんとまなっちゃんが、昨日から仕込んだもので、俺のよりはるかに美味しくなっている。




「はい。おまちどうさま」


 まなっちゃんが、にっこり笑顔を子供に向け、女性におわんを渡している。

 勝負服ではなくエプロン姿のまなっちゃん。今日は柔らかな笑みがあふれている。



 俺は「ありがとうございました」と300円を受け取り、子供へと愛想を振りまきながら親子を見送った。

 目にはいくもの屋台が映っている。

 並木沿いにずらりと並ぶ屋台。からあげ、かき氷、りんご飴、お好み焼き、お面、射的と定番のものの他にも、厩舎の人たちが独自でだしている串焼きやお雑煮といったものもある。


 さっきの親子の姿を目で追うと、並木の横にある芝生広場のほうへと向かっている。

 

 子供たちが遊んでいる中に、ちかちゃんと奈津さんの姿が見える。

 くじ引きでもして当てたのか、大きなシャボン玉を作っては、他の子とともに追いかけている。


 厩舎の子たちともすっかり仲良しだ。


 新厩舎になったといっても、厩舎名が変わったくらいで、何も変わっていない。


 竹川先生は相談役ということで厩舎に残っているし、俺とまなっっちゃんもそのまま住まわせてもらっている。


 ヤマさんは、「厩舎村なんて、俺は御免だね」と言って、今までと変わらず通いをつづけている。


 その言葉の裏にヤマさんの優しさが隠れている。奥さんが亡くなってからは天涯孤独な先生への優しさが。


 奈津さんは、ちかちゃんを幼稚園に送ると、厩舎に顔を出し、家事をしてくれている。そして、幼稚園に迎えに行った後も、ちかちゃんとともに厩舎で過ごし、夕食を一緒にとるとヤマさん一家は自宅に戻るといった感じだ。


 

 柔らかな風が流れ、花びらがひらりと舞った。


 人々に幸せをもたらしてくれた桜は、やがて次の季節に進んでいく。そして、我らが桜花賞馬も。



 よっし!


 気合も入ってくる。ユッカが次に狙うは2冠に向けて大井の東京プリンセス賞。


 それが当然の流れ。だが……どうしても、彼女を走らせたいレースが。

 ユッカ、いや、田所雪香が田所雪香であるために、そのレースに……。


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