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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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♦ レース後のそれぞれ

 竹川調教師は馬主席で馬主である会社の社長とともに、その瞬間を目撃していた。

 目を潤ませた老紳士二人は、顔を見合わせるとにっこり微笑んだ。


 その場には他に二人の姿もあった。

 4月からユッカが所属することになる厩舎の調教師・小野山ヤマさんと馬主である会社の経理兼馬担当・岡谷である。

 二人はゴールの瞬間に思わず抱き合っていた。


 だが、すぐにはなれ、顔はそっぽを向いている。それが普段の姿である。


 今日の竹川厩舎は総出。ヒメは乗馬クラブの石矢が、「大一番なんだから、みんなで応援してこい」と引き受けている。


 観客席には、小野山の妻である奈津や娘のちかの姿もあった。





 関係者席には、ラクパーク競馬のイベントに参加していた須田茉莉香と青鈴大平の姿があった。


「とんでもない脚使いよったな」


 大平はため息交じりにそう言い、茉莉香は興奮冷めやらぬ様子で、


「あのスローで、直線一気に2馬身突き抜けるってありえないですよ。このレース映像を肴に缶ビール5本はいけますよ。それより、ねえ早くユッカに会いに行きましょうよ」





 そして、観客席にはこの男の姿もあった。

 お忍びで訪れていたのは、今やJRAのトップジョッキーのひとりとなった内戸宏幸その人である。


 かつての彼は、南関東が主戦場である大井のジョッキーで、JRAへと移籍していた。


 数々の重賞を勝ってきた宏幸だが、その中でも一番胸に残っているのが、ユッカの父馬であるキラボシで制したジャパンダートダービーだった。


 彼は今、その時のことを思い出している。馬上でのあの感覚を。その名のように星のごとく輝いたあの脚を。


 あの時の彼は思ったのである。あの切れる脚は芝ならさらにと。だが、思いは故障という予期せぬ悲劇で叶うことはなかった。


 宏幸は圧倒的な脚で大外を駆け抜けたユッカの姿を目にし、胸の奥底から湧き上がってくるものがあった。

 今はJRAに身を置く彼だが、故郷である大井に対する思いは今も変わらない。いや、外にでたからこそ、むしろ強くなっている。


 もう一度この地から。

 かつては、大井やその他の地方競馬から名馬が現れ、中央に挑戦し活躍することで、競馬全体が盛り上がっていた。

 もし、再びそんな馬が現れたなら――そんな思いを抱かせてくれたのがキラボシだった。だが、それは叶わなかった。


 しかし、ユッカの走りはもう一度夢を見たくなる走りだった。

 キラボシが叶えられなかった夢を、娘であるこの馬ならきっと――。


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