表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
63/98

真夏 ♡ 咲き乱れる桜

 ゆっくりと息を吐きだす。


 覚悟は決めた。手綱を動かすことなく、その時を待つ。

 だが、心が揺れる。


 翔くんが、怒鳴り声を上げて、馬群に向かっていっている。ペースを上げた馬たちに外から抜き去られていく。


 気持ちが焦る。それでも、わたしは――ユッカを信じる。ユッカのその脚を。


 抜き去られる馬を横目に、ユッカを少しずつ外へと導いていく。直線勝負にかけるために。


 そして、ここから大外にだして直線へ。いや……。


「なんで……」


 思わず声がもれる。


 木林さんだけが、流れに乗ることなく、手綱を持ったままだ。併される形になり、外にだせない。


 このままでは直線も外から併せられる。向こうも十分に脚は残っているだろうから、ずっと併せられる形になってしまう。その上、寄せてこられたら、追いづらく……。


 今、仕掛ければ、直線に出る瞬間に内外の差で突き放せるだろうか。ユッカの脚ならルンバでも付いてこられないかもしれない。

 いや、あの前走で見せた瞬発力からすると、横に付けられてしまうだろうか。


 真夏! 迷っている暇なんてないわよ。


 自分で自分を怒鳴りつけた。


 そして、本当に覚悟を決めて手綱を動かした。


 その瞬間、横から気配が。


 木林さんが手を動かしている。反応したルンバが首ほど前へ。


 なんで……。まるで、わたしがここで仕掛けるのがわかっていたかのように……。


 このままだと最悪のことになる。少し前に出られた状態で直線にでれば、完全に外から寄せられる。

 内側には競り合う馬群がある。せっかく外にだしても、そこに寄せられると満足に追えなくなる。


 なんとかしなきゃ――さらに手を動かした。


 木林さんも、わたしの動きをまねるように手を動かす。その瞬間、ルンバが半馬身前へ。


 お願い! ユッカ、反応して。


 必死に手を動かす。だが、ユッカは動いてくれない。


 木林さんが、わたしのほうへと視線を投げてきた。その目にはユッカも映っていることだろう。

 動く脚がないユッカの姿が。


 木林さんは、さらに手綱を動かし始めた。


 こんなわたしたちなんか、もう関係ないといった感じで置き去りしていく。




 その瞬間だった――ガツンッ!


 手綱へと反応が。


「ユッカ……ユッカ!」


 ハミをとったユッカが、自ら外へ。まるで、ギャルルンバをやり過ごしてから、外に切り返したかのように。


 やっぱりユッカは凄いね。


「ユッカ! 行くよ」


 わたしはステッキを握り直した。


 浦和の直線は短い。しかも、超スローだったから、前も脚は残っている。

 だからこそ、わたしにできるのは前だけを見て、ユッカを信じて追うしかない。





 直線に入り、ステッキに反応したユッカの手前がかわった瞬間だった。それは限界まで引かれた矢のように弾けた。


 あっという間にルンバに並びかける。


 木林さんが、横目でこちらを見ると、右ステッキを左に持ちかえ、外へと馬体を寄せてきた。


 だが、並ぶ間もなくかわしていく。


 一歩蹴り上げれば、まるで飛ぶように脚が伸びていく。


 今はレースで戦いの中にいるのに、心地いい風の中にいる。風は前からなのに、まるで流されているようだ。





 気づけば、わたしたちは大歓声の中にいた。そして、いくつもの笑顔が迎えてくれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ