雪香 ☆ 咲き乱れる桜
「ふざけんな!」
鞍上の声とともにグリちゃんが下がってくる。
真夏が手綱を引くのもハミへと伝わってくる。私も下がらざるをえない。
私だって叫べるなら叫びたいくらいだ。スローの団子ペースなら、逃げるからには直線まではもたせてほしい。
いや、それが逃げ馬の最低限の責務だ!
それはそれとして、とにかく今はそれどこじゃない。
どうする? 真夏。
直線に向くところで、少しは馬群がばらけるだろう。そこで無理やりにでもこじ開けるか。
それとも――手綱からは何も伝わってこない。
真夏も私と思いは同じってことね。
勝負は直線!
さすがに4コーナーを前にペースが上がっている。上がるのが遅いくらいだ。
浦和の直線は220メートルしかない。普段の平場レースでさえ3、4コーナー半ばから一気にペースが上がる。
外側から押し上げていく馬に次々と交わされていく。
真夏が少し体重を右へと乗せているのが伝わってくる。それに応え、少しずつ外へ。
耳にはグリちゃんの鞍上、大空さんの声が届いてくる――「どけ!」
レースになれば若手もベテランも、先輩も後輩もない。
グリちゃんは馬群に突っ込んでいくようだ。恵まれた馬体とあの根性なら弾き飛ばしてでも、馬群を割っていくかもしれない。
私は私の道を行く。自分のこの脚と真夏を信じて。
さあ、勝負はここから。
直線にでるところで、下がってきた逃げ馬を除けば最後方。ここから大外にだして末脚にかける。
だが……ペースアップに乗っていかなかった馬が。
目線を投げれば、手綱を動かすことのないその人は――木林さん。
外にはいかせないという感じで並走状態のままだ。
ふと、嫌な思いが脳裏を駆け抜けた――『まさか……』
このまま直線を向けば、並走での叩き合いになる。その中で木林さんは馬体を寄せてくるだろう。
追いづらくさせるために、内側の馬群のほうへ向けて。
このまま併せたままじゃだめだ。
とその時、手綱が押された。真夏が手を動かしている。
それを待っていたかのように木林さんの手も。




