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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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真夏 ♡ 園田の狸はキツネ顔の帝王です

【4コーナー、差は1馬身】


 このまま外に合わせていって、直線で手前をかえてひと伸びできれば、なんとかなる。


 アイウォンチューはスピードに乗っているので外に膨れ気味だ。内が開くが、それでも今の姫路は外に合わせたほうが伸びる。


 こちらも膨れるのを覚悟で外へ。


 だが――後ろにも目があるの?


 村下さんは、わたしたちの進路をなくすようにさらに外へと張ってくる。

 外側には行けずに、真後ろで縦1列で回る形になっている。


 ならば、内に行くしかない。内外の差で直線にでるところで並びかけられるかもしれない。

 このままなら、直線にでれば馬場の中央辺りだろうし、そこなら内でも外でも砂の深さは変わらない。


 右へと体重移動し、手綱を少し右へと引いた。


 ユッカが反応し、アイウォンチューの内側へ。


 直線――このまま馬体を並べにいった。



 だが、帝王はやはり帝王。


 園田の帝王といわれる彼は甘くはなかった。


 そこらじゅうに目がついているのではないだろうか。もちろん、そんなことはないから予測しながら動きを感じとっているのだろう。


 わたしと同じ動き、おそらく瞬時に内側へと体重を移し、馬体を合わせてきた。


 差は半馬身ほど。


 ここで手前をかえて、ギアを上げれば突き抜けられる。


 だが――体勢が。


 馬体が迫ってきている。じりじりと。

 急激に寄せてくれば斜行といことで反則になるが、手綱さばきで少しずつ寄せてきているのだ。


 それでも鼻づらが並ぶくらいの状態なら、こちらからも寄せれば、今のユッカならぶつかったとしてもなんとかなる。せめて首差くらいでも。


 だけど、半馬身も後ろだとぶつかっていけば、体勢を崩して落馬しかねない。


 導かれるように砂が深い内へ内へと押し込められていく。



 だめだ――このままじゃ、だめだってわかっている。だけど、どうしたら……。



 落ちていく視線。その先に映るのは紫の……ステッキ。


 雪香ちゃんのステッキ。妹の小春ちゃんがわたしへと託してくれたものだ。


 もう、バカ!――大前さんとも約束したじゃん。先生のためにも絶対にこのレース勝とうって。雪香ちゃんのためにも。


 雪香ちゃんの思入れがつまったユッカで絶対に勝つ。雪香ちゃんが大好きなこの地で。



 雪香ちゃんのステッキを強く握った。


 体重を右へとかけ、手綱も少し強めに右へと引く。


 ユッカの体が内へと向かう。自ら動いたことで、アイウォンチューとも間合いができた。


 すぐに村下さんが寄せてくる。それまでの一瞬に全てをかける。


 ユッカなら反応できると信じて肩ムチを。


 ユッカは肩ムチを入れようとした時には、すでに反応していた。すでにわたしがやろうとしている事がわかっていたかのように。


 手前をかえている時は不安定で少しでも接触されれば、大きく体勢を崩してしまう。


 お願い。間に合って。



 体が揺れる。ぶつけられた。

 だが、ユッカの脚はしっかり着地してくれていて、体勢が崩れることはなかった。



「よっし。ユッカ行こう!」


 右手に持つステッキを指先でくるりと回し、持ち直す。そして、握り直すと、思いを込めて振りおろした。


 ロングスパートでいっぱいいっぱいだろう。苦しいだろう。脚が残っていないかもしれない。


 それでも、わたしにはこうすることしかできない。


「ユッカ! がんばれ!」


 手綱を押す。思いと力を込めて。

 首差。


「ユッカ! がんばれ!」


 手綱を押す。みんなの思いを込めて。

 頭差。


「ユッカ! がんばれ!」


 必死に腕を伸ばした時、視界の片隅にゴール板が映っていた。






 届いたのだろか。


 必死だったので、自分ではわからない。ゴールした今、斜め前を村下さんが乗るアイウォンチューが流すように走っている。


 村下さんはスピードを落としつつ、わたしのほうへと馬体を寄せてくる。レースの時のように激しく迫ってくるわけではないが、なんか緊張してしまう。


 わたしもスピードを落とし、並んで歩く形になった。

 とその時、大げさなほどに舌打ちする音が。


 思わず顔を向けると、怒っているような険しい顔がそこにある。


「やられちまったな」


 悔し気な声が聞こえ、睨むような視線が向かってきた。


「すみません」


 よくわからないが、思わず謝っている自分がいる。つい視線も落としてしまう。


 何も聞こえてこない。

 ふと思う。やられちまった……てっ、今言ったんだよね? 

 ってことは、もうしかしてわたしたち――顔を上げると、柔らかな笑みが迎えてくれた。


「おめでとう」


 その声に、「ありがとうございます」と返すと、村下さんは馬首を返して、ゆっくりと戻っていく。


「ユッカ。わたしたち、本当に勝ったの?」


 もちろん、何か言ってくれるわけじゃないけど、思わず聞いてしまう。


「おめでとう!」


「えっ?」


 ユッカではなく、いつのまにか横に馬体を並べてきたチャーリーさんが声をかけてくれた。


「わたしたちって、本当に勝ったんですか?」


「……たぶん。村下のおっさんが悔しそうな顔したやさかい、間違いないやろ」






 検量場へと戻りながら、電光掲示板に表示された数字を目にして、はじめて確信することができた。


 ユッカ。わたしたちやったよ。勝ったんだよ!



 わたしはユッカからおりると、迎えてくれた先生の胸に飛び込んだ。




 


 

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