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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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♦ 白鷺の姫杯

【2月末日 白鷺の姫杯 姫路1500m 天候:晴れ 馬場:良】


 今年新設された地方全国交流の3歳牝馬重賞に、大井など各地から5頭の遠征馬と地元兵庫(園田及び西脇トレセン)の7頭、精鋭12頭が集結している。


 その中で1番人気となったのがアイウォンチューである。

 調教が馬なりばかりで軽すぎるとみられていたが、実績が抜けているということだろう。前走の全日本2歳優駿では、JRAの牡馬も含めた強者を相手に3着と好走していた。


 2番人気にはコウキナルドリーム。

 無敗の園田2歳チャンピオンであり、年明けのここ姫路でのレースも強い勝ち方をしている。とはいっても、ここまで戦ってきた相手は地元馬だけで、実力はまだまだ未知である。

 それでも明け3歳の牝馬とは思えぬ雄大な馬体には大物感があり、期待せずにはいられない。


 差がない3番人気がユッカである。

 こちらも無敗馬だが重賞未経験で実績が劣る。こちらも未知ではあるが、レベルが高いといわれる南関馬だけに、この人気になっているのだろう。





 全馬がゲートに導かれ、最後に大外の馬もおさまった。そして、ゲートが開くと、アナウンサーの小気味のいい実況が流れていく。


『好スタートを切ったアイウォンチュー。やはり早い。さらに村下が大きく振りかぶりムチを放っていく。みるみる差が開いていきます』


 他の騎手たちは、ゲートから出たなりで手綱を緩めている。騎手の誰もが知っている。追いかければ自分の馬もつぶれてしまうことを。


 それはアイウォンチューの前走、全日本2歳優駿をみても明らかだ。

 逃げるアイウォンチューを追いかけていた先行馬はJRAの強者でさえ、勝ち馬であるハシャ以外は総崩れになっていた(ハシャは後に世界を相手にUAEダービーをも勝ってしまう怪物ホースである)。


 さらに今回は、騎手が出ムチまで入れている。これは折り合い知らずいわれる暴走馬をさらにあおっているようなものだ。


 テン乗り(初騎乗)であるがゆえの騎乗ミス?


 おそらく調教師からは逃げの指示がでていることだろう。だとしても、アイウォンチューという馬の特性をわかっているなら、出ムチを入れるなど明らかな間違いである。


 これでは止まる。


 そう思うのは当然で、追いかける者などいない。

 それは2番手につけたユッカも同じだった。馬上の中向真夏も前というより後続馬の押し上げを意識しつつ走っている。


 姫路の馬場は内側から数頭分は砂が深く設定されている。ゆえに内をあけて走るのが定石である。

 真夏も2か月近くこの地で修行してきたので、それはしっかりと頭に入っている。

  

 この状況ではアイウォンチューは自然とたれる(下げる)ことになるだろう。となると後続馬が一気に押し上げてくる。そこで追い出しのタイミングが遅れかぶされると、砂が深い内へと押し込まれてしまう。

 だから、真夏は後続の動きを感じとりながら、仕掛けるその瞬間をうかがっていた。



『さあ、早くも向こう正面に入り、差はさらに大きく広がっていきます。10馬身、いや、もっとあるでしょうか』



 その時、騎手たちはまだ誰も気づいていなかった。


 村下という男の怖さを。彼が心の中ではにやりと笑っていることを。




 そんな中、何かを感じとった男がいた。何かがおかしいと気づいた男が。


「あかん! この狸おやじが! やりやがったな!」


 声とともに比嘉開人の手が動く。経験から作り上げられた彼の体内時計が気づかせた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 大逃げのペースは確かに平均より早い。だが、これまでのアイウォンチューからすれば楽なペースである。

 成長しているのはユッカだけでなく、この馬もそうであった。


 名将・古久保竜也は前走の全日本2歳優駿前から、砂をかぶせるという調教を繰り返していた。2頭の馬を前に走らせ、その後ろを走らせるというものだ。

 キャンターと変わらぬゆっくりなペースで、しかも砂が飛んでくるという状況にアイウォンチューは首を上げたり振ったりと抵抗していたが、それでもやめることなく繰り返されていた。

 そして、前走までは追い日には単走でビシッと追うというものだった。その効果で、今までに見られなかった我慢強さで交わされてからも3着に粘っていた。


 さらに今回は追い日も単走でゆっくり走らせ、口を割って嫌がっても抑えつづる調教が繰り返されていた。


 それによって今の姿がある。早いラップでも抑えがきいている。

 ()()()()()()()アイウォンチューへと生まれかわっている。




 馬群の中段に控えていたコウキナルドリームが比嘉の手綱に反応して動き出す。

 まだ向こう正面の中頃手前である。いつもなら直線差し切りが勝ちパターンだったコウキナルドリームが、巨体を弾ませ早くも押し上げていく。


 村下によって仕掛けられた罠から抜け出さなくては。そんな思いで比嘉の手が動き続けている。


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