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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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雪香 ☆ 私の思い

 私はゆっくりとコースの外側を回っていた。


 横にはサクットネが並走している。あくまでもウォーミングアップだが、走る馬だけあっていいフットワークをしている。


 今度のレースには、この馬よりさらに強いであろう馬たちが出走してくる。

 それなのにこんな調教でいいのだろうか。

 そんな不安が押し寄せてくる。昨日の夜のチャーリーさんの言葉とともに、


「こんなんじゃ、勝たらへん。どうしても勝たなあかんレースちゃいますの。それなら後悔せんように目一杯やらなあかんやろ」


 チャーリーさんも、信ちゃんが先生のためにどうしてもこのレースを勝ちたいということを知っている。

 だからこそ、強い口調で信ちゃんに迫っていた。


 信ちゃんの思いは、私の思いでもある。真夏の、そして、ヤマさんの。


 私たちの思い――先生のために勝ちたい。




 サクットネが2コーナーを回ってペースを上げると、コースの内側の方へと向かっていく。そのままコースで追い切るために。

 私はこのまま外側を流していき、引き込み馬道から加速し坂路を駆けあがる。


 だが――脚に力を込めた。


「おいっ!」


 そんな声が聞こえてくる。同時に手綱が引かれている。それでも私はサクットネを追うように馬場の内側へ。


 チャーリーさんは馬場の外側へ戻そうと左へ手綱を引いているのがハミへと伝わってくる。

 それでもハミを噛んで首を伸ばす。


「よっしゃ、わかった。お前も走りたいんやな。ほんなら行ったるか!」


 気合が入った声が聞こえ、それとは裏腹にハミに伝わっていた力が消えていった。

 自由になった首を前へと伸ばし、思うがままに脚も伸ばす。


 私はサクットネの外側にピタリと馬体を並べた。


「目一(杯)で併せるぞ」


 チャーリーさんの声が聞こえ、サクットネの馬上からも声が聞こえてくる。何やら文句を言っているが、チャーリーさんは、


「ごちゃごちゃうるさいのう。ええから目一の併せ馬や。ええな」



 馬場の中央を走り、3、4コーナーを回っていく。その途中でサクットネの騎手の手が激しく動き始めた。

 それに呼応して加速したサクットネに一瞬離されかけたが、ハミへと伝わってきたチャーリーさんの指示に応え、私も脚を伸ばす。


 直線への入り口で私のほうが頭ほど前にでている。


 サクットネの馬上から気合の声と鞭が飛ぶ。

 右鞭と遠心力で外へと張ってくる。


 馬体が一瞬接触する。

 急成長だって信ちゃんも真夏も先生も驚いているが、悲しいかな、まだまだ400キロもない。

 軽く弾かれただけで体勢がぶれる。


 直線に入り、サクットネが1馬身ほど前にでている。


「柿沼! この下手くそが!」


 チャーリーさんの声が飛ぶ。


 その声を蹴散らすように、サクットネに鞭が1発、2発。

 1馬身半、2馬身と差が広がる。


 耳へと馬上からつぶやくような声が届いてくる。「やたろうやないかい」


 声とともに、視界に鞭が。

 見せ鞭に反応し、脚で空を切る。

 そして、右手前から左手前へ。


 手綱が揺れるように動き、歯車が噛みあうようにハミがかかる。それを噛んで首を前へ。


 一段ギアが上がったように加速し差がなくなった。


 サクットネの鞍上の手は激しく動いている。

 その姿が見えたのもほんの一瞬だった。


 首が押し出されるように前へと伸びる。体が沈みこんだようになり、脚も前へ前へと。


 ふと、園田競馬でのチャーリーさんの姿が浮かんでくる。

 差し馬といえばチャーリーさんといわれるように、園田の短い直線で大外から差し切る姿を数えきれないほど目にしていた。

 なぜそんなに伸びるのかと思っていたが、なんとなくわかった気がした。


 前と押す力がしっかりと伝わってくる。


 それが私の力にもなり、脚が前へ。


 気付けば、サクットネを置き去りにしていた。






 ゴール板を過ぎ、流すように1コーナーを回っていくと、首を撫でられる感触があった。

 息を整えるように歩いていると、心地よさに体が満ちている。


 ゆっくりと横に並んできたサクットネの馬上から、「凄い馬ですね」と驚きに満ちた声が聞こえてくる。

 それに対しチャーリーさんからは、「とんでもない馬かもしれへん」


 驚きの中にもワクワクしているような声。私の心も弾んでくる。


 だが――ドクンッと胸が波打った。覚えた違和感に。

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