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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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信一 ♠ 騎手問題

 ユッカのほうは順調だが、まだ大きな問題がひとつ。 相変わらず騎手が決まっていない。


 そんな中で船橋のベテラン・桑畑が空いているという話を耳にした。最近は勝ち星こそ減らしているが、これまで1500を超える勝ち鞍を積み上げてきた名手だ。

 そして、なんといっても大舞台に強い。


 重賞であっても人気薄で何度も、あっといわせる穴をあけてきた男である。まさに職人、ここぞという時頼りになる。

 ヤマさんからも、あの人なら俺よりちょっと上手いし文句はねえとのことだ(明らかに向こうのほうが上だよね)。


 先生からもOKをもらい、さっそく依頼したが一歩遅かった。前日に騎乗馬が決まったというのだ。

 その馬を調べてみるとユッカより弱そうなのだが、きっぱり断られてしまった。


 その事をヤマさんに伝えると、いつものように無理やりにでもどうにしかしろ、とでも言われるとも思ったが、悔し気な舌打ちの後に聞こえてきたのは、


「先に決まっちまったか。なら、しょうがねえ」


 簡単に引き下がる姿に拍子抜けしてしまった。逆に俺が、「簡単にあきらめちゃっていいんですか」と言うと、


「あの人は性格も職人だからな」


 一度引き受けたら、たとえ有力馬から依頼されても断る人らしい。律儀で頑固なまさに職人なのだろう。


 となると誰に。


 はあ、思わずため息がでる。






 俺は馬舎に足を運び、騎手がいないとユッカにぼやいていた。


『チャーリーさんって依頼はしてみた?』

「いや、あいつは自厩舎(所属先)に有力馬がいるから無理だよ」

『とりあえず依頼だけでもしてみる価値はあると思うけどな』


 ユッカはそう言うが、桑畑さんと同じで決まっているからと断られるだけだ。

 そう話すとユッカは、


『まあ、言って断られてもそれだけのことじゃん。言うだけ言ってみたら』


 まあ、確かにそうなんだけど……。




 渋々ながら聞くだけ聞いてみるということで先生にも許可をもらった。ヤマさんには、どうせ断られるだろうし、後回しにしといた。

 っていうか、そもそもヤマさんは部外者だし話す必要ないよね(冗談ですよ)。


 まあ、関係ない人はほっといて、いつものようにまなっちゃん目当てで顔をだした比嘉に、話を持ちかけてみた。

 相変わらず軽い感じの比嘉に、こっちも軽く言ってみたのだが、すっと真顔へと変わっていた。さらに話をつづけていくうちにいつしかは真剣な顔になり、そして、「返事は後でえぇすっか?」と去っていった。


 俺はその姿を見送り、自分の手にあるタブレットに視線を落とした。


 ユッカの声が蘇る――『チャーリーさんに依頼する時、私のレースも見せてみて』


 デビュー戦から2戦目、3戦目とレースを見ていくうちに比嘉の表情が変わってきていた。




 そして翌日、引き運動を終えたユッカと先生が戻ってきた時、どこからともなく比嘉も姿を現した。そして、去っていった時と同じ真剣な顔で先生の前に立つと深々と頭を下げた。


「精一杯乗りますんでお願いします」


 先生は「こちらこそ、お願いします」と彼の肩に手を置いた。


 顔を上げた比嘉はにっこり笑うと、いつもの調子に戻り、「あれ? 真夏ちゃんはいいいひんの?」


 





 俺はユッカをブラッシングしながら、「まさか引き受けてくれるとはな」


 いや、まさかではない。そんな気はしていた。レース動画を見て変わっていく比嘉の表情に、心が動いていると確信していた。

 とはいっても、田森先生からも依頼されているであろう彼が、そっちを断ってこっちを受けるというのは、やはりまさかだった。


 比嘉は名門田森厩舎の有力馬を優先的に回してもらっている。だからこそ、勝ち鞍が伸びている。

 もちろん腕があってこそだが、先生や馬主の機嫌をそこねては、もともこもなくなる。


 俺がそのことを口にすると、ユッカは、


『チャーリーさんってあんな感じだし、楽しけりゃいいやって見えるけど、誰よりも勝ち負けにこだわる人なんだよね。だから、少しでもチャンスがあるならそっちをね』

「そっか、それでレース動画を見せてといったのか。いやあ、それにしても凄い自信ですね。ユッカさん」


 半分笑いながら言うと、ユッカは頭をかきながら、いや、かいてんじゃないかという感じで照れながら、『いやいや、それほどでも。自信なんてありませんよ』


「なにをご謙遜しなくても」


 などとふざけ半分で言っていたが、少なくとも比嘉開人は有力馬の一頭であるサクットネよりユッカを選んだということだ。よりチャンスがあるからこそ。


 俺だけじゃない。現役の1流騎手にもユッカの力が……なんだか嬉しい。楽しみでわくわくしてくる。



 これで騎手も決まった。と、ふと気になることが口からぽろり、「比嘉、これから大丈夫か」


 園田なら実績と信頼があるだろうけど、南関東に移籍してからは日が浅い。勝ち鞍こそ伸ばしているが、あくまでも田森先生あってこそだ。

 先生の機嫌をそこねては騎乗数は激減するだろう。


 俺がそう言うと、ユッカはにこりと笑って(俺には馬だってユッカならちゃんとわかりますよ)、


『大丈夫。チャーリーさんの腕はすでに南関の人たちにも浸透してるんじゃない?』


 言われてみれば確かに。他厩舎からの依頼も増えている。今回のことを思えば我が竹川先生もその一人だ。

 ヤマさんにも電話で伝えると、「俺よりは下だが」と相変わらずそんな事を言っていたが、喜んでいるのが声から感じられた。


『それにあの人は、ほんと人たらしだから大丈夫。なんかかわいがられるんだよね』


 ほんとそうだ。はじめはあの見た目からなんか嫌なやつだと思ったが、いつのまにか打ち解けていやがる。

 あれは人の心に入り込む天才だな。まさに天性の人たらしだな。


 こうやって気になっている時点で、俺もあいつの人たらしにやられているということか。


 まあいい。一緒にがんばろうじゃないか。


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