表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
31/98

真夏 ♡ なんで

 なんで?


 そんな思いで手綱を動かす。それでもユッカは反応してくれない。このままでは包まれてしまう。


 今日の馬場(重馬場)だと包まれれば泥をかぶることになる。まだ、3戦目のユッカだと戦意を喪失してしまう恐れがある。

 だからこそ、先生たちとも逃げの作戦でいこうと決めていた。それに今日の大井はラチ沿いは重い(走りにくい)ので、ラチ沿いは避けて逃げるはずだったのに。


 どうしよう? どうしよう?


 気が焦ってくる。手綱と一緒に持っていたステッキを持ち直して、しっかりと握った。

 ユッカには調教も含めてステッキを入れたことはない。


 お願い、反応して――雪ちゃんから受け継いだステッキを振るった。だが、ギアは上がらない。


 外から馬が前へと切り込んできた。さらに、その前にも。


 なんとか外にださなきゃ。


 泥をかぶらない外に出したいのだが、横には馬がいる。


 手綱を抑えて下げてから外に出そうか。それとも、強引にでも押して前に行ってスペースを見出すか。



 

 決断もできず何もできないまま1コーナーへ。前も横も後ろも馬に囲まれた最悪の位置で。






【向こう正面】


 どこかで外に出さなきゃ。


 だけど、馬に囲まれ内に押し込められている。1番人気で当然マークされているし、出させてなんてくれない。


 ユッカのデビュー戦の時が脳裏をよぎる。


 本当にわたしって……。


 下手すぎて自分でも嫌になる。あの時も今も迷ってばかりで。

 少し勝てるようになっても何も変わっていない。デビュー戦はユッカに勝たせてもらい、後は逃げ切りばかり。斤量が恵まれているから(4キロ減)、逃げ馬に乗せてもらえて勝てていただけ。

 現に他の戦法では負けてばかりだ。


 やっぱり、わたしなんて……。


 と、その時、顔へと泥が飛んできて弾けた。ゴーグルにも飛んできた泥で視界が曇っている。


 ふと、胸の中を流れていく声――「ユッカが勝てたのは君のおかげでもあるんだよ」




 いつものように最終追い切りの後、3者会談をしている時だった。最近、少し勝てるようになり、先生がほめてくれていた。

 わたしは、「4キロ減で逃げられた時だけですから」と言葉をもらしていた。


 まさに、そのとおりで下手なまま。


 その時、茶化すようなこと言って、わたしを持ち上げていた大前(信一)さんが、突然真剣な眼差しで、「そんなことない。ユッカが勝てたのは君のおかげでもあるんだよ」


 わたしだったからこそ、勝てたんだとも言ってくれた。





 小さな衝撃とともに、目の前が真っ暗になった。

 再び飛んできた泥が弾け、視界がほとんどなくなっている。


 弾けたのは泥だけじゃない。わたしの中でも何かが弾けていた。


 泥のついたゴーグルを首まで下げた。重ねて装着していたゴーグルはわたしの心と同じ。


 開けた視界で、真っ直ぐと前を見つめた。


 ユッカは顔にはメンコだけで何かを装着しているわけじゃない。わたしのせいで、顔だって目だって泥が飛んできて苦しいだろう。


 ユッカごめんね。下手すぎる相棒で。


 しっかり周りへと視線を送った。3コーナーでどこかにスペースができるはず――もう、迷わない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ