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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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信一 ♠ 奇跡を信じて

 今日も夕方になると、リンゴとニンジンを手に馬舎へと足を運んでいた。そして、ユッカとヒメが食べ終わった頃、声が聞こえてきた。


「お疲れさまです」


 声が聞こえた出入り口のほうへ視線を向ければ、まなっちゃんの姿。彼女は1泊2日でユッカの実家がある栃木県の那須に行っていた。


「お帰り」と声をかけると、「ただいま戻りました」の声が返ってくる。もちろん、ユッカからも声が飛んでいる。


 その声は聞こえてはいないだろうが、ユッカへと近づいていき、鼻づらをなでながら、「ただいま」と声をかけている。


 ふと目に止まる物。

 那須から戻った直後であろう彼女はリュック型の鞄を背負っている。そこに収まらず、飛び出しているのは?


「それって?」


 声に振り返った彼女は、俺の視線で何のことを聞いているのか分かったようで、背中のほうへ腕を伸ばし、鞄からそれを抜き出した。


『あっ、それ』


 ユッカから声が聞こえ、まなっちゃんからも、


「雪ちゃんが使ってたステッキです。小春ちゃんから預かってきました」


 持ち手の部分が淡い紫色の特徴的な鞭だ。


『小春。小春ちゃんは元気だった? パパは? じいじは?』


 ユッカから声が次々と聞こえてくる。

 俺はその気持ちを受け取るようにうなずくと、ユッカにかわって、まなっちゃんに聞いていった。



 まなっちゃんの話によると、ユッカ(雪香)は今、病院と併設する自宅にいるという。事故から意識がない状態はつづいたまま、ベッドで横たわりつづけているという。

 そのお世話は看護師がしているらしいが、中学1年であるユッカの妹・田所小春も学校から帰ってくると、毎日寄り添っているという。


 ベッドはリビングにあり、何をする時も一緒で、夕食もユッカは食べることができず点滴だが、家族で昔のように話しかけながら共にしているそうだ。


 まなっちゃんの話の途中から、すすり泣くユッカの声が聞こえていた。まなっちゃんの声も震えていた。


 まなっちゃんは、握りしめた鞭をじっと見つめている。


「わたしに何ができるかなんて分からないけど……小春ちゃんがこれを渡してくれた時の言葉をしっかり受け止めようと思います」


 小春ちゃんは、「お願いします」と言ってまなっちゃんに頭を下げたという。


 俺はユッカを見つめて声をかけた。


「きっと戻れる。田所雪香はきっと」


 ユッカが小さくうなずいている。振り返ったまなっちゃんにも声を、


「ユッカには田所雪香の思いが込められている。だから、願いとか希望とかかもしれないけど、俺は信じている。ユッカが勝つ先に奇跡があるって」


 まなっちゃんの結ぶ口にぐっと力がこもった。そして、小さいけど力強くうなずいてくれた。


「よっしゃ! 明日から気合入れていくぞ」


 声を張り上げでしまい、驚いたヒメがいなないでしまった。

 慌てて謝りながら、ヒメをなだめる俺がいた。


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