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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
22/98

雪香 ☆ 気合十分です 

【大井競馬場第4レース新馬戦 外周り1200メートル 天候:曇り 馬場:良】



 背に乗せる真夏から緊張感が伝わってくる。ゲートに入ってからは一段と増しているようだ。


――真夏、落ち着いていけば大丈夫だから。


 そう声をかけてあげたいのに、できないのが歯がゆい。


 さらに気になることが――ちょっと、前ちゃん! それなんとかならないの。


 隣の1番ゲート馬のいれこみ(興奮状態)が激しく、ガチャガチャと音を立ててゲートに体をぶつけている。同期の前ちゃん(前田純)が必死に落ち着かせようとしているようだが、開閉扉に突進しそうな勢いで体が止まることなく動いている。


 こういう馬の隣は本当に嫌なものだ。騎手だった時も自分の馬までいれこみやしないかと心配になっていた。

 もちろん、今の私(馬)がそうなることはないが、脚を蹴られたりしないかが心配だ。ゲート下は空いているので、何かのはずみに脚と脚が接触し、怪我してしまうこともあるのだ。


 とにかく2歳馬なんてまだまだ幼い。しかも、初めてのレースなのだから、何があるかわからない。


 さらにさらに気になることが――手綱が絞られてきてる?


 おそらく、前ちゃんは突進フライングしないように、手綱を絞って馬を抑えようとしている。その影響か、それとも久々のレースで緊張しているからか、無意識かもしれないが、真夏まで手綱を絞っている気がする。


 こうなるとスタートが――あっ!


 そう思った瞬間、ゲートが音を立てて開いた。


 体が反応し、首を前へ。


 だが、ハミ(※本文最後)に引っかかりが。手綱が絞られていたからか、一瞬首が後ろに引かれるようになり、1完歩目が遅れてしまった。


 と次の瞬間、体に衝撃が走った。


 ヤバい!


 3番の馬が内側によれて、体当たりされる形になった。その馬は同じ2歳馬なのに、500キロある大型馬。私なんて350キロちょいしかない。内側へと弾き飛ばされている。


 暴れていた1番の馬は出遅れたのか、横に馬はいない。このまま内ラチ(コース内側の柵)にぶつかってしまう。ぶつかれば転倒しかねない。


 なんとかしなくては。そう思うのだが、体のバランスが崩れ、どうすることも――。



 とその時――ぐわっ! 


 ハミが、口が、首が捻じ曲がるようになったと思ったら、右に傾いていた体が大きく左へ、と思ったらまた右?


 うわわわって――ナイス! 真夏。


 見事な手綱さばきで体勢を立て直してくれた。



 よっし。ここからでも何とか巻き返して前へ。


 前脚を伸ばし砂を掻きこむ。後ろ脚で砂を蹴り上げる。 真夏も私の思いに応えてくれるように手綱を動かしている。


 だが、体勢を崩しただけに加速がつかない。外の馬たちが次々と内側に押し寄せてきて、前に壁ができていく。


 もう、こうなったら、ここ(馬群の中)で我慢するしかない。


 前の馬たちが蹴り上げる砂が顔や体にあたり走りにくい。それでも、とにかく我慢。

 そうすれば、きっとチャンスはある。大井のコーナーはきついから、隙間ができるはず。


 その時のために、すっと息を抜いた(力を温存した)。

 この位置で脚をためようとした次の瞬間に、ハミが――真夏が手綱を絞っている。


――真夏! ここで下がったらずるずる最後方になっちゃう。


 ぐっとハミを噛んで首を前へ。真夏はまだ手綱を引こうとしているが、それでも首を前へ。


 頭の中を駆け抜けていくのはあの言葉――「女だって度胸よ!」


 それは、私がデビューしたての頃にもらった言葉だった。






ハミとは馬の口に噛ませる棒状の金具である。馬の口には12本の切歯があり、切歯のうしろはかなり広い歯のない部分があり、その奥に臼歯(奥歯)が並んでいて、この歯のない部分にハミをかける。

騎手の手綱さばきは手綱を通じてハミに伝えられ、馬を意のままに動かすことができる。

                            (参照・競馬用語辞典)



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