信一 ♠ 素晴らしいと思いませんか
【8月×日 ユッカ入厩3日目】
まだ入厩して3日目だが、先生から「コースにだしてみますか」と言われ、まなっちゃんを乗せてのキャンターでコースを周っている。
先生はユッカを見た瞬間から仕上がった体を見て驚きの声を上げていたが、実際にコースを走る姿を見て、いい馬ですね、とさらにうれし気にほほ笑んでいた。
コースを周って戻ってきたまなっちゃんからも、
「これで本当に調教をしたことないんですか。キャンターだけですけど、なんか凄いです。わくわくしちゃいます。それに本当に素直ないい子ちゃんですよね」
「でしょ」
俺はそう言いながら、まなっちゃんに向けていた視線を下へと落とした。
まなっちゃんに褒められて、照れ笑いをしているわ。ユッカなら馬でも表情だってわかる。
「先生。この仕上がりなら来週の能試を受けてみませんか」
能力試験は地方競馬独特の制度で、出走経験がない馬は受けなくてはならない。競馬場で実戦と同じ形で行われ、合格には基準タイムをクリアしなければならず、大井競馬の場合は800メートルで54秒に設定されている。
このタイムをクリアすること自体は難しくないが、ゲート入りやゲート内で暴れたり、スタートで大きく出遅れたりすると、不合格となるケースもある。
先生は少し考えるような表情の後、馬上のまなっちゃんへ、「中向さんはどう思いますか」
「驚くほど仕上がりは進んでいるようですし、1本(追切り)行けば大丈夫だと思います」
先生もまなっちゃんも、ユッカが生産牧場から直接来たと話した時には、信じられない、という表情になっていた。
今日、キャンターとはいえ走らせてみて、改めて驚いているようだ。
「そうですね。ゲート(スタート)から1本流して、来週の能試を受けてみましょう」
【翌日、追い切り】
ゲートも、もちろん問題ない。すんなりスタートを切って、軽く流して、無事に追い切りを終えた。
さあ、来週はいよいよデビューへの関門、能力試験だ。
これも問題なくといきたいところだが、心配なことが……小林牧場から大井競馬場までは馬運車での輸送となる。
ユッカ、車酔い大丈夫?
それと、大井競馬場に行くということはまなっちゃんのことも心配だ。




