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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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番外編 ◆ 父馬・キラボシ

【ジャパンダートダービーJpnI 大井競馬場2000Ⅿ外回り 天候:晴れ 馬場:良】



『今年もJRAをはじめ各地から精鋭が集まりました。大井のこの地でまさに3歳砂の王者が決まります。枠入りは順調でぞくぞくとゲートへと引かれていきます』


 実況アナウンサーの声が、中継を見る人たちのもとへと送られていく。


 このレースには14頭の馬が出走する。注目はなんといってもJRAの馬たちである。

 7頭が出走するが、その中でも3頭が注目されている。




 マギアンジー・5戦3勝


 デビュー戦で2着に敗れた後、未勝利戦を逃げて勝ち上がると、その後は1勝クラス、オープン特別と逃げ切り3連勝。

 前走は重賞のユニコーンステークスで出負けして2着に敗れはしたが、強引に先行して2番手から抜け出し、東京の長い直線を最後まで粘っていた。




 タロヤマノサト・12戦3勝


 デビュー当初は芝を使われていたこともあって、勝ち上がるのに時間はかかったが、ダートを使うようになってからは、複勝率はパーフェクトで前走のユニコーンステークスでは中段でレースを進め、直線で大外に出すと一気に差し切っていた。




 サンサンビーチサン・3戦3勝


 アメリカ産の輸入馬で、デビューは4月と大幅に遅れたが、未勝利戦を勝つと、勢いに乗って1勝クラスも連勝。6月の古馬混合の2勝クラスも好位から楽に抜け出し連勝を伸ばしていた。



 他のJRA4頭も強い馬ではあるが、やはり3頭が抜けている。

 脚質も逃げ、先行、差しと分かれ、どんな展開になるかと話題になっていた。




 そして、もう一頭注目されている馬が。


 キラボシ・7戦2勝


 マサル(噛みつきヒーロー)の全弟ということでデビュー前から話題になっていた。

 あくまでもお騒がせ兄の弟ということであって、デビュー戦のオッズが示すとおり、実力が見込まれていたわけではなかった。


 だが、兄とは違って力もあったようで、デビュー戦で勝利し、その後も先行抜け出しの安定したレースぶりで勝てないまでも善戦していた。

 重賞である京浜盃でも4着と好走し、JRAの皐月賞のような位置づけである羽田盃も5着と掲示板を確保していた。


 そして、迎えた東京ダービー。

 人気は14頭立ての9番人気。これまでの成績からみても低評価である。

 安定はしているものの意外性がないということだろう。また、血統が地味でトレンドではないので期待感もない。それが成績より下の評価につながったのだろう。


 陣営は人気もなかったからか、思い切った作戦にでた。騎手・内戸宏幸は好スタートを切ったが、手綱を絞り最後方まで下げた。

 3、4コーナーでも動かず、直線。


 キラボシは今までにない脚で弾けた。地方のダート競馬ではめったに見られない直線一気での東京ダービー制覇だった。

 そして、南関東、いや地方競馬の期待を胸にジャパンダートダービーへ。






『各馬一斉の綺麗なスタート。今日はマギアンジーも好スタート。仕掛けていきます。園田のハナキリダイマオウが内から抵抗しますが、スピードの違いですなりハナへ』


 サンサンビーチサンは押して、2番手につけている。楽に逃がすと怖いということで、ぴったりマークの力勝負を選択している。


 数頭の地方馬とJRA馬を挟んで、中段から前の2頭をじっくり見定めているのがタロヤマノサトである。


 そして最後方にキラボシ。



 3コーナーを前に馬群は縦長になっている。


 先行する2頭が競り合うように早い流れを作り、まさに力勝負の様相になっている。


 先行集団にいた地方馬は脱落し、3、4コーナー手前からJRA馬が早めに追い上げる。だが、騎手たちの手が激しく動いているのに、前の2頭との差は詰まらない。それどころか離されている。


 唯一、追い上げてきたのがタロヤマノサト。4馬身ほどの差で直線へ。


『今年もJRA馬が掲示板を独占か。マギアンジーとサンサンビーチサンが馬体を並べて直線へ。少し遅れてタロヤマノサトがつづく』


 タロヤマノサトは4馬身ほどの差まで詰めて直線を迎えたが、そこから差は詰まらず逆に離されていく。


 直線も半ば、完全に一騎打ち。

 馬場の真ん中で馬体がぶつかる勢いで競り合っている。

 アナウンサーが両馬の名を連呼して声を張り上げている。


 突然その声が止んだ。一瞬の間があり、そして、


『キッ、キ、キラボシ。大外から白い馬体が光り輝きながら飛んでくる』


 3、4コーナーから力尽きた地方馬を置き去りにし、直線で大外に出すと脱落したJRA馬も飲み込んでいた。


『キラボシ。キラボシ。行け! キラボシ。行け!』


 実況であるのに、アナウンサーの思いと願いが声となって吹き出ていた。


 30年間大井で実況をしてきた彼の心の叫びだった。

 所詮地方は地方。大井の馬なんて場所を貸しているだけだと言われ続けていた。まさにそれは現実で、掲示板は毎年JRA馬に独占されつづけていた。


 でも、いつかは。彼はそんな思いを胸に、毎年マイクの前に座り続けていた。

 そして今、信じられぬ光景が目の前に。


『キラボシが一気に抜き去る。その差1馬身、2馬身――』


 キラボシは4馬身の差をつけてゴールを駆け抜けていた。


『大井生え抜きの馬がついに勝ちました。地方競馬の英雄、その名はキラボシ。大井の夜にキラボシが燦々と輝いています』


 噛み締めるように言ったアナウンサーの声は震えていた。



 キラボシは輝き、流星のように駆け抜けた。


 だが、それが最後の輝きだった。


 その後のレースに向けての調教中に骨折し、1年半後に競馬場に戻ってきたが、以前の面影はなく惨敗を繰り返し、引退となった。



 キラボシ・13戦3勝 主な勝ち鞍 東京ダービー ジャパンダートダービー


 これが大井で輝いた英雄の生涯成績だった。

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