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アイドルジョッキー馬になる  作者: ゆらゆらゆらり
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プロローグ

【 4月末日 東京競馬場】


『今年のオークストライアル・フローラステークスは例年以上に注目が集まっています。その注目の的、ルビームーンも8番ゲートへと導かれていきます』


 アナウンサーの声が電波に乗り、テレビやインターネットを通じて、全国へと流れていく。馬券を買っている人はもちろん、買っていない人だって固唾をのんで画面へと視線を送っている。


 その中でも熱い視線を送っているのが園田競馬の関係者である。それも当然、ルビームーンは園田所属馬としては初めて現れた〝もしかしたら〟と思わせる馬なのだ。

 デビューから交流重賞を含めて8戦無敗で、その軽やかな走りは中央の芝でもと夢を抱かせるレースぶりだった。


 さらにもうひとつの注目は、その背に跨るのが園田のアイドル、いや地方競馬、いやいや競馬界の期待。デビュー3年目ながら勝ち鞍を量産する天才女性騎手・田所雪香。

 彼女目当てに競馬場には多くの人が訪れ、レース前のパドックには人が溢れていた。



『さあ、最後に大外ダッシュングウがゲートへと入っていきます』


 前扉の下をくぐり、係員が外へとでて、走りながらゲート横へと退避していく。

 一瞬の静寂。そして――


『スタートがきられました。ルビームーンもまずまずのスタートをきったようです』

 

 歓声が響き渡る。



 レースは2000メートルと若駒牝馬にしては長めの距離ではあるが、それにしてもゆったり流れている。

 そんな中、ルビームーンの姿は――地方競馬と中央競馬(JRA)では流れがまるで違う。地方では逃げて圧勝続きだったが、流れについていけないのか、後方馬群の中にある。


 これが現実なのか。地方と中央では実力に大きな差がある。しかも、今まではパワー重視のダートだったが、今回はスピードが問われる芝なのだ。


 競馬というのはお金をかけるがゆえに馬券にはシビアなもので、ルビームーンの単勝は4番人気だった。これでも単勝は応援馬券で売れているほうで、連勝系馬券ではさらに評価が低いという状況だった。


『さあ、馬群は3コーナーから最終コーナーに』


――まだよ。


『ルビームーンの姿はまだ後方にあります』


――ビーちゃん、まだよ。


『さあ、直線。1番人気のアカネダンシングは抜群の手ごたえで馬場の中央へ』


――ビーちゃん、行こう!


『アカネダンシングが抜けだす。1馬身、2馬身、後続を引き離していく。いや、大外から』


――がんばれ、ビーちゃん。大丈夫、届くわ!


『ルビーです。ルビームーンです。田所雪香の鞭に応え、大外から東京競馬場の長い直線を駆け抜けてきます。さあ、届くのか!』


――ビーちゃん!


『ルビームーンが並ぶ間もなくかわし……』


 アナウンサーの声が途切れる中、馬がゴール板を駆け抜けていった。

 映像は1着でゴールしたアカネダンシングを映していたが、競馬場にいる人の視線はゴール板手前の芝の上へと向かっていた。


 うずくまる人影は動かない。

 転倒していた馬が立ち上がったが、バランスを崩し、再び転倒した。それでも再び立ち上がっている。3本の脚で苦し気にバランスを取っている。

 右前脚は地面につくことなく、悲しく揺れている。


 痛いだろう。苦しいだろう。それでも鼻ずらをうずくまる彼女へと寄せていく。



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