第5話 無力
お前らがそっち側に回ってどうする!
曲がりなりにもエリートと呼ばれる連中の、余りにも早い、余りにも身勝手な行動に対して湧き上がる怒りの感情に打ち震えながら、スーツの上からでも分かる鍛えられた身体のその3人組をどうする事も出来ない僕は、クソ店長が殺されない事をただ祈りながら、逃げる様に家に帰った。
気付けばスマホは既に通信障害に陥っており、30分程前に家族へ送ったメールの返信すら受け取っていない。
この2年で、家族とはまるでただの他人の様な関係になってしまった。
だがそれ以前は、家中に飾ってある4人笑顔での家族写真の様に、仲の良かった家族の無事を、今は願わずには居られない。
人の明確な悪意に初めて遭遇し、その思いは増すばかりだ。
そして思った。
何故、冷静に順序立てて考える事が出来なかったのだろう。
何故、この状況に気付いたあの瞬間、皆に電話をしなかったのだろう。
何故、あの時今すぐ帰って来いと言えなかったのだろう。
既に会社に、勤め先に、学校に着いてしまっていて、どうする事も出来なかったかもしれない。
しかし、それぞれに対する、細かいアドバイスは出来ていたのでは無いか。
きっと今頃、家族は混乱の中にいる。
どうしてもっと自分は、上手くやれないのだろう。
後悔ばかりが浮かんできた。
もう、考えたくも無い。
しかし、そんな思考に反して、また自然と体が動いた。
母に向けた、想定される危険とその対策メールをその手が打ち始める。
遅れて思考が動き出し、父に、そして妹に、それぞれに対するメールが作られ、そして送られた。
結局、このたかだか1時間の結果は、全てが想定外だった。
モニターの前で想像していた自分は、コンビニを襲っていたあの3人の様にもっと残酷で、貪欲で、的確だった。
しかし結局僕は僕のままで、最初の判断を誤り、生きる為に略奪もせず、かと言って遭遇した悪意に何をする事も出来無かった。
無力だった。
しかし、考えもせずに体が動いた瞬間。
まだ何の結果にも繋がっていないが、誰も死なせたく無いと思ったあの行動だけが、自分が無力である事を否定する。
この世界で邪魔である筈の優しさだけが、僕の心を支えているのだ。