第22話 復路
大丈夫だろうか。
僕は車に積んである目覚まし時計とグラスの数を数えた。
その数はすでに3割程までに減っており、来る時のペースで使用したら、家まで全然もたない数だった。
来る時の高揚感は消え失せ、ただ恐怖の感情に飲み込まれそうになりながら僕は車を進めて行く。
コンビニからの音が届かない所まで来ると、すぐに奴らの集団を見つけた。
クラクションが鳴らされるまで待とうかとも思ったが、いつ鳴らされるかも分からないクラクションを待った結果、朝を迎えてしまったらすぐに奴らに見つかってしまう。
仕方が無く、また目覚まし時計を使ってしまう。
これで残りはあと1個。
でもこの最後の1個は、僕が家に入る時の為にどうしても残しておかなければいけない物だ。
帰りたい。
早く家に帰りたい。
ただその一心だった。
車の後ろに引きずる者の存在も忘れ、時間をかけて進み続ける。
あともう少し。
もう家が見える。
もうすぐ家に帰れるんだ。
家までは最後の直線を残すのみ。
そこには奴らの姿も見当たらない。
もう大丈夫だ。
しかしその時、後ろで音がした。
車に何かがぶつかる音。
ミラーを見ると動けないはずのそいつの手が、まるで何かの意志がある様にバタバタと動いていた。
そしてその手は道に落ちていた小石を再び掴み、掴まれた小石は再びその手を離れ、僕の車に当たって再び音を立てた。
そこからは一瞬だった。
その動きは既に多くの奴らを近くまで呼び寄せていて、その音は奴らの攻撃対象をこの車へと上書きさせた。
僕の視界は、あっという間に奴らの顔で埋め尽くされてしまった。
もう打つ手が無かった。
ガラスを破られるのは時間の問題だった。
僕は家族写真を汚されない様にダッシュボードにしまうと、
しっかりとシートベルトをして、ただ目を閉じた。
誰よりもこの世界の事を考えていたはずなのに、
結局、何も上手く出来なかった。
誰も救えなかったけど、
せめて誰も
襲わない様にしよう。
目覚まし時計の音が聞こえた。
茶碗の割れる音が聞こえた。
グラスの割れる音が聞こえた。
奴らはその音に攻撃対象を上書きされ、
僕の車から次々にはなれていく。
何が起こったか分からず目を凝らすと、
近くの家の窓が静かに開くのが見えた。
そこから放り投げられた茶碗は音を立てて割れ、
更に奴らの攻撃対象を僕から離れた場所へと誘導する。
見ると、道沿いに並ぶ家々の窓、その全てが少し開いていて、
次から次へと物が投げられていく。
その音は、まるで僕を応援する歓声の様に
僕の背中を押し続けた。
その歓声に勇気付けられた僕は、
ついに我が家へとたどり着き、
家に入った僕はただ一言、
「ただいま」
とつぶやいたのだった。
僕は、奴ら1人の回収に成功した。
近所の人は気付いていました。
主人公の行動と呼応する様に更新される、命を救ってくれる情報の数々。
自分を救ってくれたのはあの大企業ではなく、目の前のこの人なのだと。
そして見ていました。
あの親子が襲われそうになった時、主人公が家を飛び出そうとするところを。
3階の窓に大きく書かれた「明かりをつけるな」のその文字を。




