第18話 力の使い方
個人では決して出来ない、その巨大な力に唖然とした。
妹のアドレスやアカウント、
ホームページやクラウドデータ、
そして、持ち歩いていたノートパソコンまで。
奴らに対抗する情報を拡散するための力。
その全てを、連中に乗っ取られてしまっていた。
幸いにも、スマホはパソコンと同期していなかったため無事だったそうだが、
その落ち込み様はかなりのものだった。
当然だと思った。
僕が手当たり次第送った情報や考察を、
この短時間で、あれだけの物にまとめていたのだ。
その中には、絶命から変貌までの時間の考察までが含まれており、
不眠不休で作業を行なってきたに違いない。
ネットを見ると、不特定多数に拡散されていたはずのまとめは、痕跡も残さずに全て消されてしまっていた。
しかもゾンビ対策で検索をかけると、妹のまとめをそのままコピペした対策情報と一緒に、あの大企業の、してもいない研究の苦労話が出てくるという有様だ。
まさに屈辱だった。
しかし、妹の気持ちとは裏腹に、僕は少し安心していた。
不特定多数に発信していたはずの妹のまとめ。
しかし、その不特定多数には、テレビしか見ない人達は入っていない。
そして、どんなに真実を書こうとも、出所の分からない物を信じない人は、相当数いるのだ。
父をの命を奪った連中に、また奪われるという屈辱と怒り。
連中の事は決して許せない。
だが、取り敢えず今は置いておこう。
人を助けるため、自分の命を捨てる人を、
僕はこの目で見た。
情報を奪われる事で1人でも多くの命が助かるのなら、そんな情報はくれてやればいい。
今はみんなを助けるため、利用できる物は全て利用するべきだ。
その後も怒りが収まらない妹を何とか説得し、
とにかく寝ろと言い聞かせた。
妹のまとめた情報は本当に素晴らしい。
妹がゆっくり休んだところで、そう事態は悪化しないだろう。
電話を切り、窓の外を確認した僕は、
少しへこんだ壁と、
血の滲む拳をひと撫でした後、
再び観察に取り掛かった。
主人公と妹の情報伝達ですが、
もともとデータ分析能力に長けていた妹が、ゾンビ対策のまとめで最も苦労したのは、
余りにも汚い、主人公の文字の解読でした。




