第10話 伝えたい事
そのメールを開いてすぐにわかった。
書き出しの一文でそれを感じた。
"間に合ってくれ!"
ほんのわずかな時間でも惜しく感じられ、そのメールの続きも読まずに電話をかけた。
30秒程のコール。
間に合わなかったと諦めかけたその時、父が電話に出た。
「…よかった、お前が無事で。」
久しぶりに聞いた父の声。
かすれ、今にも消え入りそうな父の声。
今にも死んでしまいそうな声。
父がこんなに早く死ぬ筈が無い。
今までの事、これからの事。
何も話せていないのに、
話したい事は沢山あるのに。
僕は電話の向こう側にいる父を必死で励ました。
しかし、その声を聞いていないように、父が静かに話し出す。
それは僕への謝罪の言葉。
引きこもりから僕を救えなかった事。
あの女にのめり込む僕を止められなかった事。
母に怒鳴る僕を叩いてしまった事。
遊園地に連れて行かなかった事。
授業参観に来られなかった事。
僕が悪かった事。
僕が覚えていない事。
もう思い残す事はそれだけだったかの様に、
謝罪を続ける父。
もうほとんど意識が無いのかも知れない。
もう聴こえていないのかも知れない。
その謝罪を最後まで伝える事が、父の望みだったのかも知れない。
でも、僕にはどうしても父に伝えたい事があった。
僕を愛してくれていた父に、
頭を下げたまま死んでほしく無かった。
ありったけの思いを込めて、
ありったけの声で、
僕は父に言った。
「みんな、助けるから!
絶対に、俺が助けるから!!」
「ありがとう、安心した。
みんなを頼む。」
父の最後の言葉だった。




