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9/202

9.騙された気分だよ!

 一先ず、午後6時で診察終了。

 勿論、急患は受け付けるけどね。


 夕食はナタリアさんとエレーナさんで用意していてくれた。

 でも、イリヤ王子がお城に戻られたら、ナタリアさんもエレーナさんもいなくなるわけだし、夕食の用意は自分達でするんだよね?

 診療が終わってから用意するのって結構大変そう。



 私達が夕食を取っていると、

「ヒヒーン!」

 馬の鳴き声が聞こえてきた。


「導師様が戻ってきたようですね。ちょっと出迎えに行ってきます。みなさんは、ここにいらしてください」


 フランチェスカさんが、使っていたフォークとナイフをテーブルの上に置いて、食堂から小走りで出て行った。



 そして、数分後。

 何やら話をしながらフランチェスカさんが一人の女性を連れて戻ってきた。この方もアラサーっぽい。


 その女性は、すっかり元気になったイリヤ王子を見てムチャクチャ驚いていた。

「本当に! さっきフランチェスカから聞いたけど、信じられない」


 ところで、この女性、誰?

 するとイリヤ王子が、

「このラヤの治癒魔法で治してもらったんだ。わざわざ僕のために本部までの往復の旅、ご苦労だった、オリガ・ゲオルギエフ導師」

 って、その女性に言っていたんだけど……。


 えっ?

 この教会の導師様って男性じゃなかったの?

 あれっ?


 すると、オリガ導師が、

「全快なされて何よりです。で、君がラヤちゃんか。私はオリガ・ゲオルギエフ。オリガと呼んでくれ。みんなからはゲオルギー導師って呼ばれることもあるけど」

 って自己紹介を。


 じゃあ、ゲオルギーって言ってたのって、ゲオルギエフの略称?

 そうだったのかぁ。


 地球の場合、ゲオルギエフをゲオルギーって略するかどうかは知らないけど。でも、こっちの世界では、そう言った略称を使うのが普通ってことなのか?

 すっかり騙された気分だよ!

 まあ、気を取り直そう。



「ラヤと申します。宜しくお願いします」

「でも、ラヤちゃんが昨日、この教会に来るって予め知っていたら本部には行かなかったよ。教皇様は、女神アクアティカから啓示を受けてご存じだったみたいだけどね」

「そうだったんですか?」

「そうなのよ。せっかく会いに行ったのに、『イリヤ王子を治す者が使わされると啓示を受けているから帰りなさい』だって。ソッコー、単身で帰されたよ」


 ええと、大変お疲れさまでした。

 それにしてもアラサー女子が多いな。

 私は相手を診断するために他人のステータス画面を見ることが出来る。なので、みんなの年齢も分かっちゃう。


 フランチェスカさんもオリガ導師もエレーナさんも見た目通りアラサーで婚姻歴無し。

 ナタリアさんも、実はアラサーの下限の年齢ってとこで、やっぱり婚姻歴無し。


 この世界では独身アラサーが流行っているのかな?

 口が裂けても、こんなこと聞けないけどね。



 夕食を終えた後、

「ゲオルギエフ導師、フランチェスカ。僕のためにお手数をかけた。それからラヤ。僕を救ってくれてありがとう。そのうち迎えに来るからね。では、僕は一旦帰ります」

 イリヤ王子は、そう言うとエレーナさんの転移魔法で、ナタリアさんも連れてお城へと戻られた。

 急に、この空間が広くなった感じがする。



 フランチェスカさんが、後片付けを始めた。

 私も、それを手伝おうとしたんだけど……、

「フランチェスカから、ラヤちゃんがイリヤ王子の頭の中のデキモノを十秒ちょっとで治したって聞いたけど、ホントなの?」

 オリガ導師からの質問コーナーが始まった。


「あっ、はい」

「マジで? あれは私でも手の施しようが無いって思ったレベルだよ。あれが腹の中だったらまだしも、頭の中だからね。間違いなくラヤちゃんは教皇様よりも上を行くね」

「そうなんですか?」

「間違いないよ。教皇様自身も、自分の遥か上を行く者が女神様から遣わされたって言っていたからね。さすが、アクアティカ様から遣わされただけのことはあるわ。他にも何人か治したの?」

「メアリさんご夫妻の……」

「ああ。あの、南に五キロほど行ったところの老夫婦だね」

「はい」

「奥さんは目が白く濁っていて、ご主人は頭の奥の方に余計な水が溜まっていたからね。二人とも治してあげたかったんだけど、共に病人だって自覚が無かったのよね。患者から依頼を受ければ医療行為をできるけど、勝手にこっちから医療行為を強制することは法に触れるからね」

「そうなんですか?」

「そうなのよ。でないと詐欺が発生するって。つまり、治癒魔法を持っていないのに持っているふりをして、一方的に『アナタの病気を治してあげました! だから金をくれ!』なんてのが出てきちゃうからね」

「たしかに……」

「あと、昨日、ウィルキンソン親子も治したって?」

「はい。娘さんは破傷風で」

「えっ? マジ?」

「はい、あと子爵様は胃潰瘍で」

「胃?」

「ええと、鳩尾の辺りの器官です」

「ああ、この袋状のヤツね」


 一応、オリガ導師は人体の構造を御存じのようだ。まあ、何人も診てきたから経験的に分かっているんだろうね。

 さすがに、各臓器の名前は知らないみたいだけど。もっとも、この世界では臓器に名前自体が付いていないか。


「私が以前いた世界では、胃と言っていました。そこに潰瘍ができていたんです」

「潰瘍か。じゃあ、痛かっただろうな」

「でしょうね。で、明日はウィルキンソン子爵に夕食をご招待されてますので」

「それもフランチェスカから聞いた。でも、こっちの味とラヤちゃんが前にいた世界の味じゃ違うんじゃない?」

「そうなんです」

「食べられそう?」

「きつくても我慢して食べます」

「そうか。でさあ」

「はい?」

「王子様に求婚されたんだって? 王子が言っていた『そのうち迎えに来る』ってのも、その意味でしょ?」


 きたかぁー!

 とうとう、この件もオリガ導師から突っ込まれたよ。やっぱり、既にフランチェスカさんから報告済みのようだ。


 それにしても、独身アラサーからの、この攻撃はキツイ。

 なんて答えるべきか……。


 なので、私は、一応、

「今は治癒魔法で患者を一人でも多く救うことが最優先です。当座の目標は一万人です。それより、フランチェスカさん一人に後片付けをさせるのはマズイんじゃないですか? 私も手伝わないと……」

 と言って誤魔化すと、私はフランチェスカさんの方に逃げた。


 勿論、食器洗いとかを手伝うためだけどね。

 でも、別に嘘は吐いていないからOKだよね?


 …

 …

 …


 翌日、午前の診療。

 私とオリガ導師で手分けして患者を診て行った。その数は、合計で六十人ほど。

 いつもより多いってフランチェスカさんも驚いていた。


 それと、この町以外から来ている人も結構多かった。

 それも、見た感じ貴族っぽいのが何故かいた。


 って言うか、ステータス画面で確認したけど、この人達、貴族っぽいじゃなくて、本当に貴族だったよ。

 最初は何でって思っていたけど、受診に来た貴族の一人が、

「ウィルキンソン子爵から聞いてね。持病の腹の痛みが消えたって聞いたし、子爵のお嬢さんの病気も一瞬で治したって聞いたしね」

 って言っていた。

 子爵が宣伝してくれたんだ! 有難い。


 また、ある貴族からは、

「イリヤ王子を治したって聞いてね」

 と言われたし。


 既に、私の治癒魔法が上流階級の中では結構知られてきているみたいだった。

 凄く情報伝達が早いんですけど?



 そんな中、

「ちょっとイイ?」

 私はオリガ導師に一人の患者さんを頼まれた。

 働き盛りの平民中年男性だ。


 この患者さんは、隣町から来られたようで、近隣まで名が通ったオリガ導師を頼って、ここに来たっぽい。

 でも、導師でもキツイって判断して私に回してきたみたいだ。


 って言うか、導師は隣で見学しているよ。

 まあ、イイけど……。


 で、診断すると……。

 げっ!?

 ステータス画面に出てきたのは、結構厳しい内容。



 病名:すい臓がん末期

 特記:肝臓、大腸にも転移し、がん性血栓症も併発



 まさかの沈黙の臓器……。

 しかも末期で転移あり。でも、がん性血栓症って何?


 すると、私のステータス画面上で辞書機能が開いた。

 詳細は分からないけど、悪性腫瘍では血栓を作りやすい傾向があるらしい。

 それが酷い時には肺とかに詰まってお亡くなりになることもあるとか。


 かなり深刻な状態だよ。

 早速、私は、患者さんの身体を診断魔法でスキャンした。

 たしかに急がないとマジでヤバそうだ。



 患者さんは、

「導師様が診てくださるんじゃないんですか?」

 と不安……と言うかご不満の様子。


 すると、オリガ導師が、

「この娘、見た目は子供ですけど、治癒魔法に関しては教皇様以上です。ですので、ご安心ください」

 と私を持ち上げてくれた。


 でも、

「そうですか?」

 患者さんは懐疑的な視線を私に向けているよ。そりゃあ、こんな小娘をいきなり信用しろって言うのもムリだよね。

 威厳も何も無いもん。


 でもね。手は抜かないよ。

 早速、病変部位を摘出&消滅!

 さらに血栓の除去&消滅。そして、転移等が無いか改めて全身スキャン!

 よし! 問題無し!

 今までの最長タイムが出ました。1分30秒です!



 でも、地球で同じ症状の人を手術するってなったら、絶対に、こんな短時間じゃ済まないもんね。

 この患者さん、ホント、治せてラッキーだよ。


 隣では、オリガ導師がマジで驚いていた。

「何で何で何で!」

 これを聞いて焦る患者さん。


「何かあったんですか?」

「何かって、こんな超スピードで完治させるなんて凄いじゃない! どうしてこんなことできるのって思って」

「では、私は治ったんですか?」

「治ったわよ。正直、私じゃ治せるか微妙だったから、それでラヤちゃんにお願いしたんだけど。さすが、イリヤ王子を治しただけのことはあるわね!」

「では、本当のこの娘は?」

「女神様が遣わされた聖女様よ」


 うーん。

 それは持ち上げ過ぎだと思うけど……。


 少なくとも私は、前世での罪滅ぼしのために来ているだけなんだからね。

 あと、自分をカワイイ系美女の姿に固定するため。


 だから、聖女と呼ばれるほどの大人物じゃないよ。

 みんなのために来たんじゃなくて、自分のために来ているんだから。


 それに、元々は堕天使側の召喚者だったしね。

 破壊神とでも言うべきか。


 だけど、患者さんは、

「ありがとうございます、聖女様!」

 本気にしているっぽい。私が聖女だって。

 悪い気はしないけど、過大評価だよ!

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