83.バカ王子参上?
ギルド内では、そのまま大宴会に突入していたけど、私はお酒が飲めないし、適当なところで抜け出して、リジンの転移魔法で彼女と一緒にリカルドの経営する家具屋に戻って来た。
ちなみに公爵様から私とリジンに支払われる報酬は、今夜、ギルドの者が持ってきてくれるそうだ。
それから、リジンからは特に八つ当たりされることは無かった。
オードブルの盛り合わせをシコタマ食べて機嫌が良くなり、失禁した過去を忘れ去ってくれたようだ。
「ただいま」
「お帰りなさい。早かったですね」
出迎えてくれたのはフルフラール。今日、彼女はリジンの代わりに家具屋の方を手伝ってくれている。
リカルドは、この時、奥の方で接客をしていた。
「まあ、思っていた以上に簡単に事が済んだもので」
「じゃあ、魔獣の発生源は?」
「大丈夫。もう大量発生しないと思いますよ」
「そうですか。それは安心……って、それって何ですか?」
そう言いながらフルフラールは、私が両手で抱えるスライムを指さしていた。
と言うか、今になって、ようやく気が付いたのね。
「見ての通り、スライムです。従魔にしたから大丈夫ですよ」
「従魔法が出来るんですか?」
「出来たみたいです」
「でも、たしか従魔って従魔術師が従魔法以外の固有能力を持つ場合、それを受け継ぐことがあるって話じゃないですか?」
「そのようですね」
「正直、首刎ね魔法を使うスライムとかになったら怖いですよ!」
ははは……。
フルフラールったら、私と同じことを考えているよ。
でも、そうなったら面白い反面、たしかに怖い。
私の首ちょんぱ魔法はシルリア世界の人間に対しては発動しないはずだから、この特性をスライムが受け継いでも人間だけは安全だと思うんだけど……。
大丈夫だよね?
…
…
…
その数日後のことだった。
私が、何時ものように患者を診ていると、フルフラールが診察室に慌てた表情で駆け込んで来た。
「バルティカ公爵様と、もう一人、御身分の高そうな方がいらしてます!」
「ええと、じゃあ、この患者さんの治療が終わったら通してください」
「分かりました」
この患者は、毎度の如く勇者様からの紹介の男性。毎日一人か二人来る、例の余剰部位除去志願者だ。
勇者の知り合いで、この形状の人って、これで何十……いや、何百人目だろう?
と言うか、この国の該当人数って、どれくらいなんだろう?
お陰でフルフラールの給料が出せるからイイんだけど。
私は、その男性の股間に両手をかざすと、
「余剰部位除去!」
いつもの治療(?)魔法で望みの状態にしてあげた。
ちなみにスライムは、私の机の上で軽く上下に跳ねながら、私が診断・治療する姿を見ていたよ。
「ありがとうございました。お陰で自信が持てます!」
そう言うと、その男性は診察室を出て行った。
そして、これと入れ替わりでバルティカ公爵と、もう一人の青年が入ってきた。
この時、バルティカ公爵は、少し困ったような顔をしていたけど、どうかしたのかな?
一方、その青年は、二十歳くらいかな?
妙に嬉しそうな顔をしていたよ。
顔は……イマイチだったけど。
初めて見る顔だけど……、ステータス画面を見て驚かされた。
職業欄に、
『アロバニア王国第一王子』
って書かれていたよ。
「君がラヤ君かい?」
「はい」
「俺はアロバニア王国第一王子のクリマティウスだ。ユーリプテルスの森で起きた魔獣大量発生を解決してくれたそうで感謝する」
ユーリプテルスの森は、私達が俗に『北の森』って言っているところだ。
イアペトゥス町では、森が真北に位置するから誰もが『北の森』としか言わない。
と言うか、正式名称で呼んでいる人を見たことが無いよ。
「勿体無いお言葉、ありがとうございます」
「しかも、治癒魔法は勿論のこと、魔法で食事も出せるし、従魔法も使えるとバルティカ公爵から聞いている。もの凄いマルチタスクだな」
「いずれも女神ロリダ様より授かった力でございます」
「それで、ラヤ君には是非、我が妃になって我がアロバニア王国のために、その力を使っていただきたいと思ってだな……」
うーん、そう言うことか。それで、バルティカ公爵は困った顔をしていたわけだ。
先日、魔獣発生源を処理した際に、私はバルティカ公爵に、
『王家の嫁ぐのは遠慮します』
なんてことを言ったからね。
表向きだけど、その理由も、
『女神ロリダ様から遣わされた身ですので、私の勝手で動くことは出来ません』
ってことにしておいたし。
半分、口から出まかせだけどね。
ロリダ様から遣わされたのは本当だけど、別に結婚しちゃダメとか言われてないからね。
だけど、多分、この王子は、私がバルティカ公爵に伝えたことを知った上で私に求婚して来ているんだよね?
そうでなかったら、バルティカ公爵は恐らく困った表情を見せていないよ。
何と言うか、私がロリダ様から遣わされたってことを信じていないのか、それとも自分の方がロリダ様よりも偉いとでも思っているのか。
加えて、王国のためにとか言っていたけど、どうせ私の能力を人々のためではなく王家の見栄のために使おうって魂胆じゃないかって気がする。
それに、俺様オーラがバリバリに出ているし。
顔もイマイチだし。
いずれにしても私のストライクゾーンからは大きく外れているよ。
でも、困ったな。
恐らくだけど、断っても聞く耳持たないだろうな。
何となくだけど、王子に生まれたことで幼い頃からチヤホヤされて来ただろうし、どんなことでも思う通りに事が運ぶと勘違いしているんじゃないかな?
そもそも、思い通りに行かないことを許さないだろうし、この手の権力者の申し出を断るのってムチャクチャ難しい。
それで、私は、どう切り出して良いか分からず困っていたんだけど、そうしたら、
「手を貸しましょう」
私の頭の中にロリダ様が直接語りかけて来た。
その直後、私とバルティカ公爵、それからクリマティウス王子の三人は、診察室から真っ白な空間に飛ばされた。
いつもの、女神様のいらっしゃる場所だ。
上の方から神々しい光に包まれてロリダ様が降りて来た。
この時、ロリダ様は珍しく光の球体ではなく人型……と言うか、アキにそっくりな容姿をしていたよ。
多分、ロリダ様は最高の美女を演じているつもりなんだろう。
たしかに私が知る限り、あれ以上の美人は存在しないもんね。
少なくとも見た目だけはね!
バルティカ公爵もクリマティウス王子も、ロリダ様に見惚れていたよ。
「私はロリダ。この世界を創世し者」
「……」
「クリマティウスよ」
「は……はい!」
「ラヤには、まだやるべきことが……」
「女神ロリダ、美しい。是非、私の妃に」
クリマティウス王子……いや、もう、この男のことはバカ王子でイイや。
コイツ、ロリダ様の言っていることを全然聞こうとしていないし、それどころかロリダ様に求婚しやがったよ。
完全に頭のねじが一本、どこかにスッ飛んでるね、このバカ王子。
ただ、ロリダ様は、バカ王子がこう言ってくることをある程度想定していたみたいに思える。
それどころか、
『計画通り!』
とでも言い出しそうな表情に見えるのは気のせい?
そして、ロリダ様は、
「アナタは、ラヤにも求婚していましたね。その上で私にもですか?」
とバカ王子に言った。何を考えがあるんだろうけど。
ロリダ様が、今、何を考えているのか私にも全然読めない。
まあ、悪い方には持って行かないと思うけど。
「そうです」
「しかし、私の定めの中に一夫多妻は有り得ませんよ」
「でも、俺の常識では一夫多妻は普通なんだよね!」
このバカ王子。完全に頭がイカれているよ。
普通、女神様を相手に言うかよ、そんなこと?
こう言われて、ロリダ様は怒りの表情に変わった。
ただ、ロリダ様から伝わって来る波動からは怒りではなくガッツポーズでも取っているような感じに思えたけどね。
私には、ロリダ様の表情と心の内が、完全にかけ離れている気がしていた。
「ならば、一夫多妻が許容される生物に変わりなさい」
「えっ?」
「人間をやめてオットセイにでもなるが良い」
こうロリダ様が言われた直後、私達は診察室に戻っていた。
まるで、三人が同時に同じ幻を見ていたかのように感じたよ。
私もバルティカ公爵も、特に何ら異常は無かったけど、バカ王子だけは、何か雰囲気がおかしかった。
目の焦点が合っていなかったし、全身がカチカチに硬直しているかのようで、微動だにしなかったんだ。
例えるなら、そう……、まるで蝋人形みたいに見えたよ。
一応、呼吸はしていたから生きているのは間違いなかったけど、魂が抜け出て身体だけがここに残っているようにすら思えた。
「クリマティウス殿下!」
バルティカ公爵がバカ王子の身体を揺すったけど、何の反応も無し。
完全に抜け殻になっていた。
多分、ロリダ様からの天罰で、魂だけ別次元に飛ばされたんだろう。そこで、地獄のような何かを見させられているんじゃなかろうか?
公爵は、
「ラヤ君。王子を何とか治せないか?」
と聞いて来たけど、
「これって、多分、女神様からの天罰じゃないでしょうか? だとすると、いくら私でも治すことは不可能です」
と答えるしかなかったよ。
治したいとか治してあげたくないとか、そう言った心情はともかくとして、女神様の意思でこうなっている以上、私には元通りにする術が無い。
ただ、ここにいられても困る。
まだ患者が残っているからね。
なので、私は、
「済みませんが、一先ず奥にある診察用ベッドにでも王子を寝かせてあげてください」
とバルティカ公爵にお願いした。
別に触りたくも無いとまでは言わないけど、少なくとも私の力じゃ、ベッドまでバカ王子を運べないからね。
それに、ここには患者が順番に入って来るからね。
バカ王子にもバルティカ公爵にも、患者から見えないところに移動して欲しいってのもあったんだ。
バルティカ公爵は、それが分からないほどバカじゃないようだ。
私の意図を察してバカ王子を抱えて急いで奥の方へと移動してくれた。
一応、私はパーテーションを置いてバカ王子とバルティカ公爵の姿が患者達から見えないようにしてから診察を再開した。
…
…
…
それから十人くらいの患者を診たけど、一先ず、これで午前中の診察は終了。
今日は、症状の軽い患者が多かったし急患も無かった。
バカ王子の件を除けば非常に平和な時間だったよ。
もうすぐ十一時半になる。
なので、私は急いで飲食店の方に移動しようと思っていたんだけど、まさに、その矢先の出来事だった。
診察室の扉が勢い良く開き、数人の兵士が診察室内にズケズケと入ってきた。
さらに、その後から頭に冠を被った中年男性が入って来たんだけど、妙に怖い顔をしていた。マジで怒っている感じだ。
「ラヤはお前か?」
その中年男性が私に聞いて来た。
「はい。私がラヤです」
「ワシの名は、ビルケニア三世。アロバニア王国の国王だ。ここに、クリマティウスとバルティカ公爵が来ていると思うが?」
「そちらのパーテーションの向こうにある診察用ベッドの上で王子は寝ていらっしゃいます。公爵様は、その付き添いを」
この私の言葉を聞いて、兵士の一人がパーテーションを除けた。
ベッドの上には、未だに硬直したまま動かないバカ王子の姿があったわけだけど、これを見て、ビルケニア国王は、
「聞かされていた通りだな」
と呟くと腰に差した剣を抜いた。
もしかして、私、斬られるの?
さすがに、これには私も全身から冷や汗が流れ出て来たよ。




